2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月5日

 シカゴ大のミアシャイマー教授が、8月17日付けで‘Playing With Fire in Ukraine’(ウクライナでの火遊び)と題する論説をForeign Affairsのサイトに掲載、破滅的なエスカレーションのリスクが過小評価されていると述べ、米国の参戦やロシアの核使用のエスカレーションの可能性があることを警告している。通念に挑戦、常に議論を呼ぶ現実主義論者による力の観点からのウクライナ・エスカレーション危険論である。

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 長文の論説であるので、主要点のみをご紹介すると、次の通りである。
①多くの者はウクライナ戦争の長期化に破滅的なエスカレーションがビルトインされていることを過小評価している。
②エスカレーションには、勝利のためのエスカレート、敗北防止のためのエスカレート、意図せざるエスカレートの三つがある。
③米国はウクライナの勝利あるいは同国の敗北回避に必死になれば参戦するかもしれない(対中国対処にリソースが必要になるとか、米国等でウクライナ支援のコストが問題化し戦争の早期終結が必要となる場合やウクライナ軍が崩壊を始める場合、あるいはバルト海で米露戦闘機が衝突するとか、リトアニアがカリーニングラードへのロシア物資輸送を遮断しロシアが報復する場合など)。
④ロシアは勝利あるいは敗北回避に必死になれば核兵器を使用するかもしれない(北大西洋条約機構(NATO)が参戦する場合やウクライナがロシア軍を打倒する場合、戦争コストが増大する長期膠着になる場合)。
⑤唯一の望みは双方の指導者達が破滅的エスカレーションを避けるために戦争をマネージしていくことだ。

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 ウクライナの戦争にエスカレーションの危険があることは、ミアシャイマーの言う通りであろう。同氏のエスカレーションのシナリオは悲観的過ぎるとも思われるが、政策立案には悲観が不可欠であり非常に興味深い。

 ミアシャイマーは、「戦時のエスカレーションのダイナミックスは予測できず、コントロールすることもできない」と言う。可能性が低くともよく考えておくべきだとの主張は重要だ。

 他方、米国の参戦シナリオの可能性については、ミアシャイマーが言うほど高くはないであろう。バイデン政権は、政府声明やウクライナへの武器供与に当たり武器の仕様や運用制限等を極めて慎重に決めている。またウクライナによるロシア本土への攻撃は米国により厳しく規制されているに違いない。更に米参戦への米政権内部や国民の支持は略ないであろう。


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