2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年10月2日

米国が誤解し続けている中国のイメージ

 ここで、「中国夢」にとって正面に敵である米国の中国観に転じると、現在の共産党政権の強権姿勢を支える経済力は、「経済が豊かになれば生活程度が高まり人権意識が増し、国民が強く民主を志向し、やがては共産党の独裁体制崩壊に繋がる」との〝大甘な誤解〟が招いた、との見方が一般的だ。だが、毛沢東から習近平までの国家戦略を振り返ってみるに、中国崛起(くっき)への一貫した意図を痛感する。いわば欧米、ことに米国の中国観の間隙を巧みに衝いた共産党政権の老獪さが現在の中国を導いたとも言えるのである。

 ここで考えたいのが、先に挙げた〝大甘な誤解〟だが、必ずしも1972年のニクソン訪中を機にもたらされたわけではなく、その淵源は米国のトルーマン大統領(1945~53年)が第2次世界大戦後の復興と開発を進めるうえで掲げた「ポイント・フォア・プログラム(重要政策第四項)」のうちの「経済状況が改善されれば、民主的な制度により平和な世界につながるという期待」に求めることが出来るのではなかろうか。あるいは「期待」と言うより、米国の「思想」と言うべきかもしれない。

 ここで視点を変えてみたい。

 朝鮮戦争の原因の1つとして米国が進めた積年の中国政策の失敗を挙げ、その経緯を詳細に論じた『朝鮮戦争(上下)』(文春文庫 2012年)において、著者のD・ハルバースタムは19世紀半ば以降の米国人、ことに宣教師の活動を振り返りながら、米国における中国観を次のように綴っている。

――「多くのアメリカ人の心のなかに存在した中国は、アメリカとアメリカ人を愛し、何よりもアメリカ人のようでありたいと願う礼儀正しい従順な農民たちが満ちあふれる、幻想のなかの国だった。・・・多くのアメリカ人は中国と中国人を愛し(理解し)ているだけでなく、中国人をアメリカ化するのが義務だと信じていた」。
 だが、「かわいい中国。勤勉で従順で信頼できるよきアジアの民が住む国。第二次大戦中、そう教えられた国(日本の場合はごく最近まで、ずるくて卑劣、信用ならない悪いアジア人が住んでいる国と考えられていた)が突然、共産主義者になったのだ」。
 元来は「中国はアメリカのものであり」ながら、第2次大戦は結果的に共産党政権を誕生させてしまい、かくて中国を「アメリカは失ったのである」。じつは「アメリカの失敗はアメリカのイメージのなかの中国、実現不可能な中国を創ろうとしたためだった」――

 「アメリカの失敗はアメリカのイメージのなかの中国、実現不可能な中国を創ろうとしたためだった」との指摘は、朝鮮戦争から70年ほどが経過した現在でも通用するだろう。

 これが言い過ぎなら、「アメリカの失敗はアメリカのイメージのなかの中国」を無批判に受け入れてきた、と言い換えてもいい。米中関係の歷史を中国の立場から見直すなら、中国の〝成功〟は米国の誤解を十二分に計算したからではなかろうか。

 現在のバイデン政権は極めて強硬な中国政策を次々に打ち出し、ワシントンは超党派で台湾支援を打ち出す。だが、そこに「ポイント・フォア・プログラム」、いや19世紀以来の中国観に対する深刻な省察は余り感じられない。誤解を恐れずに言うなら、歴代政権が展開する対処療法的中国政策に米国は翻弄され続けているように思えて仕方がないのである。

 良くも悪くも、ワシントンの動向はホワイトハウスと議会のせめぎ合いによって左右されるであろう。であればこそ経験則に照らすなら、間もなく行われる中間選挙、さらには2年後の大統領選挙の結果によっては、現在の中国政策、台湾政策が路線変更を来す可能性も想定しておくべきではないか。

習近平のウクライナ、東南アジアへの外交戦略

 最後にウクライナを軸にした習近平の立ち位置を考えてみたい。

 開戦以来7カ月が過ぎた9月末現在、わが国メディアの大方は、「ウクライナ側が戦線を押し戻し、戦争を優位に展開している。ロシア軍は潰走し、プーチンは苦境に陥っている」との見方で共通する。もっとも一部には、「戦況は依然としてロシア軍が優位だ。欧米メディアの流す情報はフェイクの類だ」との報道も聞かれるのだが。

 出口が見えないままに推移するウクライナでの戦争を軸にして現在の国際社会を見直すなら、バイデン米大統領、プーチン露大統領、それに習近平国家主席の3人が主要プレーヤーであることは否定しようがない。


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