2024年4月24日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年10月2日

 共産党政権は世界史において中国が占めてきた〝本来の位置〟を求めてきた。失地回復を目指すからこそ、超大国アメリカは最大の障害として位置づけられるはずだ。

3期目習近平が目指す「中国の夢」とは

 10月半ば開催の第20回共産党大会で定まる習近平政権3期目は、おそらく内政・外交の両面で「中国の夢」の実現を目指す政治路線を突き進むことになるだろう。とはいえ「中国の夢」とは具体的になにを指すのか。この問題を考えようと、『再造中国 領導型国家的文明担当』(王義桅著 上海人民出版社 2017年)を改めて読み返してみた。

 同書は中国を造り変えることが「世界の造り変え」に繋がる。「中国再造」は「世界再造」を導くと力説する。さらに「『中国夢』は新しい世代の指導者の執政理念で、広く内外の注目を集める。だが多くがその内実と真意を理解していないことから種々の誤解が生じている」と綴り、「中国夢」を詳細に解説する。

以下、著者の主張を要約し箇条書きにしてみる。

 1)「中国夢」は、習国家主席が13年の第12期全国人民代表大会(第1回会議)閉幕時に系統立てて述べように、人民の幸福、民族の振興、国家の富強の三位一体のものだ。民衆の利益を犠牲にするとの指摘は当たらない。
 2)「中国夢」はアメリカン・ドリームのように資源・エネルギーの大量浪費を伴うものではない。他者や他国を犠牲にしないし、環境などに負荷を掛けるものではない。
 3)「中国夢」は中国人の変革への意識を萎えさせるものではなく、理想と現実を兼ね備える。宗教上の慰めに過ぎないユートピアではなく、紛れもない現実である。
 4)「中国夢」は社会主義の共同富裕の着実な実現を目指す。中国各族人民、世界各国人民の共同富裕への夢である。
 5)「中国夢」は改革開放で証明された中国の実践力の一層の深化を目指す。習国家主席が強調するように中国の力を結集し、中国の道を歩み、中国の精神を弘めるものである。
 6)「中国夢」は中国人の共通認識を纏め上げ、人権・民主・自由を包括したもの。狭隘で身勝手な個々の自己主張・立場を擁護するものではない。
 7)「中国夢」はマルクス主義の中国化を企図し、中国の特色を持つ社会主義制度を志向する。
 8)「中国夢」は単純な現代化ではなく、中華文明の復興を目指す。文明復興と人類文明の永遠の発展を推し進める。
 9)「中国夢」は単純に中国崛起を意味しない。国際関係の民主化を推進し、東西世界の一体化と南北世界の大均衡を実現させ、融和世界の実現を図る。
 10)「中国夢」は他国の夢を排除しない。ことに発展途上の国々を援助し、国々の夢を実現させ、夢を共にし、天下大同を目指す。

 このように王の主張を要約してみたものの、「全く異なりたる環境と人生観をもつて成る国」の議論だけあって、どうにも判然としない。

 だが、敢えて誤解を恐れずに読み解いてみるなら、「中国夢」は中国だけの夢を意味するのではなく、将来の国際社会の秩序を方向付ける基軸システムを指している。たとえば毛沢東が1958年に発動した大躍進政策で掲げた「超英赶美」のうちの「赶美(米国に追い付け、追い越せ)」のレベルを超えた「夢」でもあろう。言い換えるなら、王義桅の説く「中国夢」は習近平の夢――米国に代わって国際秩序の担い手となる――に帰結し、政権3期目以降の内外政策の大枠を示していると推測することも可能だ。

 王義桅は「中国的夢」と「中国夢」の違いを強調するが、想像するに前者は文字通り「中国(だけ)の夢」であり、後者は「中国基準」の全球(グローバル)化を目指そうという「夢」を意味しているに違いない。であればこそ、やはり中国語でも「中国的夢」と「中国夢」は峻別されなければならないわけだ。


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