2024年12月4日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2013年5月24日

 欧州出張の飛行機で「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(アン・リー監督)というアメリカ映画を観た。原作は、ヤン・マーテルの小説『パイの物語』(2001年)である。

 インドで動物園を経営していた主人公一家がカナダへ移住することになり、動物を連れて貨物船に乗り込む。しかし、嵐で船は沈没。16歳の少年パイだけが救命ボートに移り、ベンガルトラとともに漂流する。まさしくサバイバルの物語だが、悲惨さよりも少年の生命力や自然のファンタジックな美しさ、大きさに心揺さぶられた。

 大海原にとり残された少年が、どうして227日を生き延びることができたのか。映画ではその秘密が寓話のように描かれている。観終えたあと、飛行機の狭い座席に沈み、いろいろなことを考えさせられた。

 東京の自宅に帰り、本棚から取り出したのが、『サバイバーズ・クラブ』である。邦訳は2010年2月の発行で、東日本大震災前に目を通してはいた。しかし、震災の体験に圧倒されて、再び本書を開く気にはなれなかった。

 少年とトラの生命の輝きにふれ、もう一度、最悪の事故を生き延びた人びとの物語にじっくり向き合ってみようと思えたのだ。

だれもがサバイバーである

『サバイバーズ・クラブ』 (ベン・シャーウッド 著、松本剛史 翻訳  講談社インターナショナル)

 まるでハリウッド映画のように、本書には、ありとあらゆる不運や逆境を乗り越えたサバイバー(生存者、生還者)が登場する。

 編み棒が心臓に刺さったのに生還し、事故後の検査のおかげでがんを発見できた女性。ゴールデンゲートブリッジから身を投げて助かった若者。9.11の世界貿易センタービルで、飛行機が突っ込んでくるのを目の当たりにしながら脱出した男性。落下するジェット戦闘機から飛び出して生き延びたパイロット。

 著者のベン・シャーウッドは、ABCテレビ「グッドモーニング・アメリカ」や「NBCナイトリー・ニュース」のプロデューサーを務め、小説も書いている。テレビ畑のジャーナリストらしく、フットワーク軽くサバイバーたちに会いに行き、親しく話を聞き出すのはもちろんのこと、サバイバル訓練にも果敢に挑む。


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