湊斗の部屋に初めて紬が泊まった3年前のシーンが、美しい。ベッドのなかで目を覚ました、湊斗が自分の方を向いて寝たままの紬を見つめる。紬がその視線に気づいたようにして、目を開けて湊斗をみつめる。ふたりをカメラはアップで映し出す。ふたりの視線がからまるのがはっきりとわかる。
近くにいるのに遠い2人の気持ち
別れの時はきた。紬が湊斗の部屋に残した、自分の私物を取りにきて、キャリアケースに詰めていく。
紬 (最初に部屋に誘ったのは)湊斗だったよね?
湊斗 青羽(あおば:紬)だよ。終電が10時だっていって。
紬 そうか、あのころは終電が10時だったんだ。
紬は、荷物をまとめる手を休めて、湊斗がすわっているソファーの隣に移る。
紬 どうする。別れる?
湊斗 別れるよ。
紬 ギリつき合っているかと思ってた。
湊斗 ギリ別れてるよ。
紬 本当に(わたしのほうが)片思いなんだ。
手話教室にシーンは転じる。紬が落ち込んでいる様子を気遣う、教師の春尾正輝(風間)が「湊斗君のこと?」。春尾は実は、行きつけの居酒屋で湊斗と名乗りあって知っていたのだったが。紬は、こう答える。
「湊斗君って、いつも無意識にいっているからですね。湊斗君とは声で話せるけど、伝わらない」
紬が務めている、CDショップの従業員の入口で、想は待っていた。「顔をみて話したい」という彼に、紬は「これから仕事。LINEして。休みのときに返すから。あなたの顔をみて話せない」と。
想の思いつめた表情とLINEのメッセージに押されるようにして、紬は想が待つ喫茶店にたどりつく。しばらく、手話で話していたふたりだったが、想がテーブルの上にだしたのは、スケッチブックのようなノートだった。