2024年12月22日(日)

田部康喜のTV読本

2021年6月15日

(metamorworks/gettyimages)

 「着飾る恋には理由があって」(TBS・毎週火曜よる10時)のヒロイン・川口春奈は、NHKの大河ドラマ「麒麟がくる」で斎藤道三の娘の帰蝶役を急きょ交代して、好演したばかりだ。時代劇から一転、横浜流星と向井理に愛される、都会の物語のなかで生き生きとしている。 

 NHKが彼女を大河ドラマに起用したのは偶然ではない。朝の連続テレビ小説に出演するのが夢だった、美少女はBSプレミアムのドラマ「受験のシンデレラ」(2016年)で注目された。生活保護を受けている家庭で育ち、アルバイトをしているときに、カリスマ予備校の教師である、小泉孝太郎と出会い、東大に合格する。

 「大河女優」となった、川口はいまや女優として、大輪の花を咲かせようとしている。今季の恋愛ドラマのなかでは、出色の出来だ。しかも、2022年度前期の連続テレビ小説の出演も決まっている。

 「着飾る」の川口は、インテリアメーカー「el Arco Iris」の広報パーソン・真柴くるみ役である。SNSで10万人近いフォロアーがいる、インフルエンサーでもある。創業者である、社長の葉山祥吾(向井理)に憧れている。

 仕事の忙しさにまぎれて、マンションの賃貸契約を忘れてしまった。年上の友人である、フードスタイリストの早乙女香子(夏川結衣)が所有している、東京・表参道のマンションに格安の家賃で入居させてもらう。

 くるみ(川口)は、マンションに引っ越してみると、そこはシェアハウスだった。同居人たちは、いずれも個性的な人物たちだ。

 隣部屋の藤野駿(横浜流星)は、キッチンカーでカレーだけを売っている。かつて、スペイン料理店「Hotensia」の腕利きの料理人だったが、店の人間関係などに悩み、突然職場を放棄して、知人の香子のマンションにころがりこんだ。部屋にものが少なく、携帯すらもたない「ミニマリスト」である。

 駿(横浜)のはとこの寺井陽人(丸山隆平)は、オンラインの悩み事相談を仕事にしている。現代アートのアーティスト・羽瀬彩夏(はせあやか・中村アン)は、コンクールに落選した、ショックで部屋に籠りがちだ。

 くるみ(川口)の会社の社長・葉山(向井)も、役員たちとのあつれきから、社長を辞任して、このマンションに入ることになった。葉山は、トルコで新たな事業を立ち上げようとしていた。

 葉山(向井)の入居と、くるみと駿(横浜)の間に生まれた、ほのかな愛に波紋を投じることになる。陽平はくるみを「マシバ・マメシバ」と呼ぶ。

 第8回(6月8日)に至って、駿のキチンカーにかつてのスペイン料理店のオーナーの娘・福本葉菜(山本千尋)が訪ねてくる。シェフが病気になって、代わりがなかなかきてくれないので、駿にきてくれというのである。「あなたには、その義務がある」といって、店の名刺を置いていく。駿が、店を訪ねてみると、オーナーに「帰れ、娘に近づくな」と追い返される。

 マンションのベランダで、駿はくるみに、ようやく葉菜が訪ねてきて、店に戻るように誘われたことを告げる。くるみはこういう。

 「もう捨てたら、後悔。全部捨てたっていってたけど、いつまで抱えてるの」

 ふたりは、ハグするのだが、くるみ役の川口が、駿役の横浜のわきの下を、くすぐる細かな演技が胸を打つ。


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