朝の連続テレビ小説「お帰りモネ」は、清原果耶(きよはら・かや)をヒロインにして、その妹役に蒔田彩珠(まきた・あじゅ)を配した、少女の成長の物語である。
大林亘彦監督が、蓮佛美沙子(れんぶつ・みさこ)を「20年にひとり」の女優と評したのにならえばいま、清原果耶と蒔田彩珠は「30年にふたり」の女優だと、筆者は思う。早生まれの清原が19歳、蒔田が18歳である。
映画・ドラマ界は、ふたりを大切に育ててきたと思う。NHKの作品でいえば、連続テレビ小説「なつぞら」(2019年)において、清原がヒロインの広瀬すずと、戦災で別れて、再会する妹役を10歳代から30歳代までを演じてみせた。「透明なゆりかご」(2018年)もまた、忘れ難い作品である。産婦人科の看護助手役を演じて、命とはなにかを問うた。蒔田は黒木華が料理人を演じた「みをつくし料理帖」(2017年)で、住み込みの女中役で可憐な花を添えた。
「透明なゆりかご」のなかで、清原と妊娠して出産した、蒔田がぶつかり合う演技を観て、いつかまた、いやこれから何度もこのふたりは競演するだろうと、このシリーズで筆者が評した(『「透明なゆりがご」小さな産院を舞台にした命の物語』)ことが懐かしい。ついに、そのときは来た。
物語は、2014年の年を舞台に始まる。東日本大震災から3年の月日が流れた。しかし、10年後のいまもそうであるように、人々の心に残った傷は癒えることはなく、ドラマの底流には「震災」がある。
永浦百音(清原果耶・ながうら・ももね)は、宮城県気仙沼育ちで、亀島で暮らす。「モネ」と家族や周囲から呼ばれている。高校を卒業する前に、祖父のカキ養殖業を営む、龍己(藤竜也)と銀行員の父・耕治(内野聖陽)、元教員だった母・亜哉子(鈴木京香)、妹・未知(蒔田)とこたつを囲みながら、「この島をでる」というのだった。
「大学に進学してもいいんだぞ」という父・耕治の言葉にモネは、首を振るばかりだった。モネには、自分がいったい何をしたいのか、本当にわからないのだった。
高校を卒業すると、モネは、祖父・龍己の知り合いである、宮城県登米市の新田サヤカ(夏木マリ)が山主である、森林組合で働くことになる。組合のオフィスを兼ねたしゃれた木造建築には、カフェや診療所もある。
診療所の若手医師・菅波光太朗(坂口健太郎)は、週に1度、東京からこの診療所にやってくる。
モネは、菅波にたずねる。それは、自分自身が求めるものを確かめたい気持ちが隠されている。
モネ 先生はどうして、お医者さんになったんですか?
菅波 あまり口をきいたことのないひとに、いきなり聞かれる質問でもないと思うけど。
モネ すみません。
菅波 いや、気になるだろうから。人の命を救いたくて、医者になった。月並みな答えで悪かっ たね。
テレビの天気予報で人気の天気予報士・朝岡覚(西島秀俊)が、山主のサヤカ(夏木)を訪ねてやってくる。山の暮らしを楽しみたいという。森林組合が企画した、森林セラピーにモネは、朝岡と同行することになる。朝岡は、雨が降り始める時刻をほとんど正確に予想して、森林組合にみんなで帰る。そのとたんに雨が降る。
モネは、朝岡にもたずねる。
モネ どうしていまの仕事をやろうと思ったんですか?
朝岡 人の役に立ちたいからかな。