2024年11月18日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年12月12日

FNMG/GettyImages

 11月28日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、「習近平のパンデミック勝利主義が彼を再び悩ませる。傲慢と権威主義が中国を終わりのないロックダウンの罠に貶めた」との論説を書いている。

 習近平は2021年の新年の演説で中国のゼロコロナ政策の成功を誇った。2年後、パンデミック対策を個人的、体制的勝利と描く習のキャンペーンは崩壊しつつある。ゼロコロナ政策に反対するデモは、10年前に権力を得た後、習の指導に対する最も深刻な挑戦のようだ。

 抗議デモのいくつかは習個人を目標にしている。成都ではデモ参加者は「我々は終身指導者の政治体制を望まない。我々に皇帝はいらない」と叫んだ。毛沢東の死後、党は唯一の全能の指導者を作ることを避けてきた。しかし習は中国を準皇帝支配に戻そうとしている。

 転換点は先月、共産党が習を党の指導者として前例にない3期目に任命した時であった。習の前任者の胡錦涛はテレビの前で舞台から強制的に排除された。習は個人崇拝を奨励して権力掌握を正当化した。「習近平思想」は党規約に書き込まれた。習のコロナ対策での成功は彼の神話の重要な部分である。

 中国のコロナ死者数は米国よりずっと少ないのは真実である。しかしゼロコロナ政策追求のコストはますます明らかになっている。経済が停滞する中、中国の若者の失業率は 20%近い。しかし習は党大会でロックダウンに責任のある上海の党書記、李強を共産党の2番目の地位に昇進させた。

 中国は自由に対する厳しい制限の4年目に直面している。パンデミックの初期段階での中国の対応を自分の手柄とした後、習は現在の危機への責めを避けることはできない。効果的な外国のワクチンを輸入していないことは、ロックダウン緩和を中国にとって危険なものにする。これは習近平の重要技術を「中国製」にするとの民族主義に結びついている。彼は中国人の命を救うワクチンをあまりに誇り高くて輸入できないようである。

 ゼロコロナ政策は習近平の強情な性格と権威主義の反映でもある。コロナの名の下で人の動きを追跡する技術は、恒久的で陰険な政治的・社会的支配の道具となることを、中国の人々は憂慮している。

 デモ隊が街頭に出てきた時が強権指導者にとり最大の危険の時である。習のあらゆる本能は力と抑圧で対応することであろう。これは彼が2019年の香港抗議を処理したやり方であり、共産党が1989年天安門で学生運動を粉砕したやり方である。しかし、習近平の賢明さと力の神話は彼のゼロコロナ政策の崩壊を生き延びることはできないだろう。

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 このラックマンの論説は、最近の中国での諸都市で起こったロックダウンへの抗議活動を論じたものであるが、的を射ている良い論説である。中国共産党大会の直後に、このような中国各地での抗議デモが起こることは予想していなかったが、一度こういうことが起こると、弾圧するか民衆の要求にある程度答えてロックダウンを緩和するかのいずれかであろう。が、いずれの方策をとっても、習近平政権への打撃は避けられないと思われる。習近平の指導力を傷つけないでこの打撃に対応するのは難問である。


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