「BRICS+」の提案も?
中国側は訪問に当たり「アラブ諸国と運命共同体を築きたい」(外務省報告書)としていたが、その経済的な思惑はほぼ達成されたと見られている。中国側は新興5カ国で構成するBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に、「BRICS+」としてサウジとアラブ首長国連邦(UAE)を加える提案を行ったのではないかと取り沙汰されている。
ただ、習主席が望んでいたもう1つの要求は実現しなかったようだ。それは石油取引の決済を中国通貨「元」建てで行う、というものだ。サウジ通貨リアルはドルと連動しているが、これが撤廃されれば、「元」は国際的な基軸通貨に格上げされ、中国の威信と立場は一気に強固なものになる。だが、今回、サウジ側からの同意は得られなかったという。
サウジ首脳との会談のほか、注目されるのはGCCとの首脳会議での「核エネルギー分野」の合意だろう。中国は石油輸入の約70%をGCCに依存しており、習主席が首脳会議の場で「石油を輸入し続ける」と約束したのもそうした背景があるからだが、双方が核エネルギーの平和的使用のための「共有フォーラム」の設置で合意したことは重要だ。
イランがロシアの支援を受けて核開発を加速させていると懸念されている中での合意で、米情報当局はイランの脅威にさらされるGCCが核開発に進むきっかけになる恐れもあるとして注視している。
キーワードは「内政不干渉」
両国が急接近したのは経済的な利益が合致したことに加え、「互いの内政には干渉しない」という政治政策が互いに都合の良いものであるからだ。中国は台湾統一や新疆ウイグル自治区の弾圧などの内政問題を抱え、米国から強い非難を浴びている。
ムハンマド皇太子の独裁支配下にあるサウジもカショギ事件に象徴されるような反体制派弾圧、女性の人権抑圧などの問題があり、欧米から批判されてきた。しかし、中国は自身に対する非難を跳ね返すためにも、「内政不干渉」を外交の柱に掲げ、サウジや湾岸君主国、エジプトなどの軍事政権から賛同を得てきた。
こうした国々にとって民主国家の理念を掲げるバイデン大統領は基本的に相容れない存在だ。中国とGCC首脳会議が閉会後の声明で、サッカーワールドカップ(W杯)開催中のカタールが外国人労働者の人権問題で国際的批判にさらされていることについて「悪意あるメディア・キャンペーンを非難する」と表明したのは「欧米式の民主主義の押し付けに対する反論」であり、中国とサウジが「反人権〝独裁同盟〟の結成を加速させている表われではないか」(識者)。