2024年12月6日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年12月20日

飽食の時代。われわれは、どこまで便利で安価なものを追い求めるのか。大量生産・大量消費モデルを追求した農業のみならず、循環型農業や都市農業など、もっと多様な形があっていいはずだ(KAZUHIRO ISHIZUKA)

 「編集で忙しいと思うけど、少しだけでも参加してみて。面白い人たちが来るから」

 今年1月、旧知の仲で、日本に「スローフード」の概念を広めた作家の島村菜津さんから小さな勉強会のお誘いがあった。場所は西武池袋線石神井公園駅近くの「PIZZERIA GTALIA DA FILIPPO」。全国各地の選りすぐりの食材を用い、イタリアの郷土料理を提供する人気店だ。

 ここで私は、ベトナムで現地の人たちと試行錯誤しながら、乳牛も育てる有畜複合の循環型有機農園を設立した濱周吾さんに出会う。しかも近年では、有機農業の〝価値〟を社会に還元しようと、さまざまな活動をしているという。濱さんの原動力は何か、ベトナムの動きから日本が学べることとは何か――。無性に知りたくなった私は、「いつか必ずベトナムに行きます」と濱さんに約束した。そして今回、念願の現地取材が実現したのである(詳細は「前例がなければつくればいい、ベトナム発〝次の農業〟」参照)。

 人類のライフスタイルが狩猟採集から農耕牧畜へと転換したのは約1万年前とされ、現代に至るまで、さまざまな進化を遂げた。食の大量生産・大量消費モデルは最たる例だ。その恩恵を享受し、戦後日本の経済発展が飢餓のない社会によって支えられてきたことは紛れもない事実である。

「お皿の外」の動き

 一方で、日本人の便利で安価なものを求める欲望は膨らみ続け、食べ物はまるで工業製品と化した。われわれは「お皿の外」の世界で起こっている現実を想像する力を確実に失った。このままでは、食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人たちを〝食べ支える〟ことは困難になる。

 だが、諦めるのはまだ早い。ベトナムや各地の「お皿の外」の動きを取材すると、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人が、企業が、確かに存在しているからだ。われわれも価値を生み出す人たちに敬意を払い、日々の消費行動や価値観を見直す必要がある。小さなことからでもいい。

〝食べ支える〟動きや仕組みが各地に広がることで、日本の農業はもっとクリエーティブでイノベーティブなものになるはずだ。大量生産・大量消費モデルだけでは日本の農業は発展しない。人間社会同様、農業にも「多様性」が必要なのだ。

 
『Wedge』2023年1月号では、「農業にもっと多様性を! 価値を生み出す先駆者たち」を特集しております。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。
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