40%のマイナス成長も現実的なウクライナ
ロシアの攻撃はウクライナの社会に激しい損失をもたらしている。ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は12月1日、ウクライナ軍の戦死者が最大1万3000人に上ると明かしたが、米軍のミリー統合参謀本部議長は11月、ロシア軍、ウクライナ軍双方とも、10万人の死傷者が出ていると発言している。
経済的損失も甚大だ。ロシア軍の侵攻により、ウクライナの今年の経済成長率は前年比でマイナス35%という未曽有の悪化が予想されており、10月以降の電力施設への攻撃は、ウクライナ経済にさらなる打撃を与えるのは必至だ。
11月に訪米したウクライナのスビリデンコ経済相は、停電の影響で企業の活動がとまり、経済成長率が一層悪化するとの見通しを示した。ウクライナでは10月、国内総生産(GDP)成長率が年率でマイナス39%を記録。停電は10月以降、深刻さの度合いを増しており、ウクライナ経済は今年、40%近いマイナス成長も現実味を帯びている。
戦況を左右する国際支援
ウクライナ経済をめぐっては、国際社会による財政支援が命綱になっている。ウクライナ最高会議は11月、2023年予算を採択したが、報道によれば380億ドル(約5兆2000億円)の赤字予算で、その大半は米国、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)による支援で穴埋めされる。
戦争の終結が依然として見通せないなか、国際社会の支援抜きではウクライナ経済はまったく立ち行かない状況にまで追い込まれている。ウクライナ政府も、給付金の支給や失業者などに軍関連の産業で仕事をあっせんするなどして、人々の生活を支えているという。
欧米諸国にとり巨額のウクライナ支援を続けることは容易ではないが、それでもロシアがウクライナの占領に成功して国力を強めれば、欧州、周辺国にさらなる脅威になるのは必至だ。そのようなロシアと対峙するよりも、現在のウクライナを支援してロシアを食い止めた方が負担は小さいとの見方もあり、各国はロシアがウクライナ侵攻を続ける限り、支援を継続する可能性が高い。
電力危機に陥るウクライナの越冬支援をめぐっては12月13日にパリで国際会合が開かれ、約10億ユーロ(約1450億円)の支援が集まった。エネルギー分野に約4億ユーロ、それ以外は水や食料などの分野に充てられる計画といい、各国が連携しやすいよう支援窓口を一本化する方針も決まるなど、ウクライナを支える欧米諸国の意思は現時点では固い。
兵力の規模で押すロシア軍と、最新兵器の支援を受けたウクライナ軍がぶつかり合う構図は当面、変化する要素がない。ロシアをめぐっては、イランとの軍事協力の可能性も指摘される。ただ、ウクライナ国民が電力施設への攻撃に耐え、ウクライナ軍が現在のペースで攻勢を続ければ、追いつめられるのはむしろロシアという実情が浮かび上がってくる。
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
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