日本産業にも影響及ぼすEV規制
他方、事実上の気候変動対策法とみられているインフレ抑制法に盛り込まれた、北米産の電気自動車(EV)に対する補助金や優遇措置は、単に温暖化防止だけではなく、国内産業育成という産業政策的な色彩が強い。その中でも、北米産電気自動車の購入者について最大7500ドルまでの税額控除を行う措置は、欧州連合(EU)、日本からの電気自動車輸出にも影響を与え、明らかな最恵国待遇、内外無差別違反のように思われ、また温暖化防止という観点からも正当化できない。
EUは、インフㇾ抑制法による様々な補助金に対する不満もあるようであり、これらの問題がこじれる場合には、対ロシア制裁でますます必要となる米国・EU間の連帯に悪影響が生ずることが懸念される。
バイデンが、トランプが始めた鉄鋼・アルミ関税を維持し、WTO違反の疑いの濃い北米産電気自動車保護措置を定めた背景には、いずれも国内対策を優先させた配慮があることが共通している。また、国際協調を重視するバイデンがWTOを軽視するのは、そもそも米国では貿易協定の効力は連邦法よりも劣位しており、日本のように条約が法律に優位しないので、議会が法律を通せば、大統領は拒否権を行使しない限り実施せざるを得ないという事情もあろう。
さらに、GATTは、冷戦時代の非共産圏諸国の間の協定であり、またWTOはポスト冷戦時代の協定で、いずれも欧米主導の国際協調が基調の時代にできた秩序である。中露など新興国5カ国の「BRICS」の台頭により、主要7カ国(G7)の経済力が相対化され、独裁主義や自国利益優先の風潮が高まる中で、米中覇権争いが国際政治の枠組みとなる準冷戦時代において、GATT第21条の安全保障条項が援用されるケースが増えることはやむを得ない面がある。