こども家庭庁には何も期待していない
まるで、「こども家庭庁には何も期待していない」と言わんばかりの反応である。なぜ、これほどまでに盛り上がりに欠けるのか。それは、メディアや国民から見て、こども家庭庁の実態が、「こどもまんなか社会」どころか、旧態依然の「大人まんなか社会」の象徴として映っているからではないか。
ここでいう「大人」とは、こどもに対するおとなという意味ではない。こどもや、こどもを育てる親などの子育て世帯、それを支える教師や保育士、児童福祉司などのエッセンシャルワーカーに対して、政治家や官僚といった政策立案者を「大人」と呼んでいる。
ここでいう「大人」は、(1)子どもや子育て世帯に対する不信感が根底にある、(2)見かけ上の実績を優先して現場の荒廃を考慮しない、(3)センセーショナルな事件に対するその場しのぎの対策を乱発する、という特性をもつ。
こども家庭庁の目玉事業として打ち出されたのは、妊産婦への「伴走型支援」と10万円の支給をセットにした新たな制度、大規模保育園に対する職員の加配の2つである。なぜ、これが旧態依然の「大人まんなか社会」の象徴なのか。その内容を具体的に見ていこう。
子育てクーポンのばら撒きで積み上がる現場の仕事
こども家庭庁の目玉事業として打ち出された第1の事業は、「出産・子育て応援交付金」である。孤立や産後うつなどを防ぐため、妊娠中と出産後に、保健師などが個別相談に応じ、家庭を訪問して赤ちゃんの世話について教える「伴走型相談支援」と10万円の支給をセットにした新たな制度となる(図表1)。
予算額は、22年度第2次補正予算の1267億円と23年度の370億円を合わせた1637億円である。
ごく簡単に言えば、妊産婦が窓口に相談に来ることを条件として、出産育児関連用品の購入・レンタル費用助成、サービス等の利用負担軽減等を図るクーポンを配布するというものである。なお、クーポン発行等に係る委託費は国が10/10、すなわち国が全額を負担する仕組みになっている。典型的な〝ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)〟といえる。
なぜ、〝ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)〟なのか。
事業予算の大半は、経済的支援である10万円のクーポン代金と、その給付事務に充てられる。ここでいう給付事務を例示すれば、次のようなものである。
・クーポン事業の予算化
・クーポンが使用できる店の募集、説明会開催
・クーポン利用のマニュアル、パンフレットの作成
・クーポン利用者のリストアップ
・クーポン配布事業の広報
・クーポン配布希望者の面談 →わずかな面談時間でハイリスク世帯であるかを判断
・クーポン配布希望者の面談記録の作成
・クーポン配布希望者のリスト作成
・クーポンの配布
・クーポン未利用者のリストアップ →ハイリスク世帯として支援の必要性を判断
・クーポン利用店舗に対する現金の支払い
・クーポン配布及び利用、面談実績の取りまとめ
・こども家庭庁への報告書類の作成
・事業評価
(出所)筆者作成、下線部のみがエッセンシャルワーク(なくてはならない仕事)だが、高い専門性が求められる。担当者の専門性が担保されるかは不明。クーポン未利用者にどのような支援がなされるのかもわからない。その他はブルシット・ジョブ。
妊娠届出時、出産届出時にクーポンを配布するだけで、これだけの新たな事務が発生する。とても市町村の職員では回すことができない。だからこそ、国は、委託者(多くは営利を目的とした民間企業)への経費の全額を負担するという大盤振る舞いをしているのである。
なぜ、クーポンではなく現金給付にしないのか。妊娠や出産の手続に市役所にきた時に併せて振込先を聞くようにすれば大した手間もかからないのに。この理由が、子どもや子育て世帯、そして国から地方自治体に対するぬぐいがたい不信感である。