少子化の加速が確実視されるなかで、今後目指すべきは小規模で一人ひとりの特性に合った保育であり、保育士の質の向上であろう。大規模施設優遇の政策は、ちぐはぐな印象を受ける。
しかし、より問題なのは、施設内での子どもの安全対策や虐待発生の防止といった公的責任が、「現場の問題」に置き換えられてしまっている点である。児童虐待通告件数は増加が止まらず、児童相談所が「こども警察」となっている現状についてはすでに述べた(「ヤングケアラーは親を罰すれば解決するのか」)。
人が足りないのは児童相談所だけではない。保育所や認定こども園の指導監査は市町村の児童担当課職員の仕事だが、公務員削減の流れのなかで、問題のある施設にきめ細かな指導を行う余裕は失われている。幼稚園や保育所以上に人員体制の強化が喫緊の課題となっているが、目玉事業を並べた「当初予算案のポイント」には該当する事業は見当たらない。
ならばと個別の事業予算をみていくと、児童相談所の強化として、「採用活動にあたり、転職サイトの掲載等の中途採用に関する採用活動を行う場合の加算を検討」との文言を見つけることができた(内閣官房「令和5年度予算概算要求の概要(参考資料)」,p.36)。
児童相談所が不人気職場で人も集まらず、人員の確保もおぼつかないので、民間の転職サイトにお金を払って採用活動を代行してもらおうというのである。数年後には、同じく採用活動に苦戦する小学校教員なども同様の事業が企画されるかもしれない。
「こどもまんなか社会」をどう実現するのか
一人ひとりのこどもの困難にしっかり支援の手を差し伸べる。少なくとも目玉事業をみる限り、「こどもまんなか社会」を実現しようという政府の気概を感じることはできない。メディアや国民は、肌感覚でそのことを理解しているからこそ、白けた空気が漂っているのではないか。
この空気を払しょくするためには、(1)子どもや子育て世帯に対する信頼を基盤に置く、(2)公的責任の範囲を明確にし、エッセンシャルワーカーがその専門性を発揮できる環境整備に力を注ぐ、(3)中長期的なビジョンに基づき事業を企画立案し、国民に理解を求めていくこと、が必要である。
「大人まんなか社会」の反省を踏まえ、「こどもまんなか社会」への転換を図ることを宣言する。こども家庭庁が社会に支持されるためには、看板倒れにならない政策の打ち出しが求められている。
後編(「こどもまんなか社会」を実現する3つの事業)では、視点を変えて、有効に機能すれば「こどもまんなか社会」の実現につながる子ども家庭庁の新規事業を紹介したい。