2024年12月26日(木)

From LA

2023年1月13日

 自動車から始まった電動化の波は、今や航空機、船舶、そして宇宙開拓へとその幅を広げている。センサーを使った自動運転、シミュレーションなどの技術は自動車関連サプライヤーと他業種との提携を通し、さまざまな分野へと広がっている。

 オーストリアに本社を持つサプライヤー、AVL社も野心的に提携関係を広げる企業の一つだ。CES2023で記者会見を行った同社は、自動車のエンジニアリング、ロードテスト、シミュレーションなどを提供する企業だが、今回イスラエルのEviation社と提携した世界初の9人乗りEVA(電動飛行機)「アリス」、米ノースロップ・グラマン社と提携した月面探査機を発表した。

「アリス」

 まずアリスだが、従来のEVAの多くがVTOL(垂直離着陸)型であるのに対し、eCTOL(従来型、つまり滑走を伴う離着陸)を採用。乗員2人と乗客9人を乗せて時速260ノットで250キロ飛行できる能力を持つ。同社が開発したMagniXエンジンと呼ばれる電動駆動システムは、NASAから7400万ドルの資金提供を受けた。バッテリーシステムを提供しているのがAVLだ。

 250キロ、というと中距離航空機に相当する。中距離機は長距離機よりも排気ガスの排出量が多く、航空機全体が排出するCO2総量は2050年には全体の25~50%に達するといわれている。少なくとも一部の中距離飛行を電動化することにより、温暖化効果ガスの排出量を減らすことが出来る。またガソリンエンジンを搭載しないことで騒音問題の解決にも役立つ。

 アリスが目指すのは、現在のハブ・アンド・スポークと呼ばれる米国の航空経路のあり方を根本から変えることだ。ハブ・アンド・スポークの場合、ロサンゼルスやシカゴ、アトランタなどのハブ空港からローカルにスポークが広がるが、問題はハブ空港の混雑とスポークが伸びずに交通弱者となる地方空港の存在だ。

 小型航空機を導入することにより、ポイント・ツー・ポイント、すなわち地方空港同士のネットワークを充実させることができ、ローカルの航空路線の利用がしやすくなる。

 アリスにはすでに100機以上の予約が入っており、世界各地のローカル航空会社や米物流大手のDHLも速達便の配送に導入を予定しているという。

月面探査

月面での活動イメージ

 月面探査機はノースロップ・グラマンが全体のデザインやシステムインテグレーションを担当、AVLがエネルギー貯蔵システム及びバッテリーシステムを担当した。ノースロップ・グラマンはNASAの月面着陸計画アルテミス・ワンに参画しており、今回発表された探査機が実際に月面で活動する可能性は極めて高い。

 ノースロップ・グラマン社のスティーブ・クレイン民間及び商用宇宙開発部門担当副社長は「この探査機のデザインはサステイナブルでフレキシブル、かつアフォーダブルな宇宙飛行士の月面探索のサポート、及び自動運転による月面調査を可能にする。将来は月面だけではなく火星でも活躍することが期待されている」と語った。

 大手企業がこうしたEVAや宇宙開発に参入する一方で、さまざまな技術を持つスタートアップの存在もCESでは目立った。


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