2024年11月22日(金)

2024年米大統領選挙への道

2023年1月19日

 今回のテーマは、「バイデンの機密文書持ち出し問題とMAGA共和党の戦略」である。共和党下院は、下院議長選出で対立と混乱を招いたが、ジョー・バイデン米大統領の機密文書持ち出しが発覚すると、この問題に焦点を当てて、同大統領に集中砲火を浴びせている。今が、24年米大統領選挙出馬の意向を示しているバイデン大統領を叩く絶好の機会と捉えているのだ。

 ドナルド・トランプ前大統領と非常に近い関係にあり、トランプ支持者に影響力を持つ米FOXニュースの政治トークショー番組の司会者タッカー・カールソン氏は、バイデン氏の機密文書持ちに関して、どのような戦略的メッセージを発信しているのか。

 また、トランプ前大統領の応援団であるMAGA(マガ Make America Great Again:米国を再び偉大に)系議員は、どのようにしてバイデン大統領にダメージを与えようとしているのか――。

(REX/アフロ)

どのような経緯で見つかったのか?

 バイデン大統領が持ち出した機密文書は昨年年11月2日、アイビーリーグの1つであるペンシルベニア大学のシンクタンク「ペン・バイデン・センター」のロッカーから見つかった。「ペン」はペンシルベニア大学のペンを指す。

 ペン・バイデン・センターは18年2月8日、首都ワシントンにオープンし、主として外交・安全保障問題を扱う。となると、バイデン大統領が持ち出した機密文書は、外交・安全保障に関わるものであるとみるのが自然だろう。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)によれば、ペン・バイデン・センターで最初に見つかった約10点の中に、「極秘(top secret)」が含まれていたという。米国では機密指定は、「極秘(top secret)」「秘密(secret)」並びに「部外秘(confidential)」に分類される。

 さらに、同紙によれば、バイデン大統領は、20年米大統領選挙に出馬した後も、ペン・バイデン・センターにある個人事務所を使用していた。バイデン氏のスタッフは、大統領選挙に敗れた場合、同氏が同センターに戻る可能性があると考えて、事務所をあけなかったという。

 バイデン氏は前回の大統領選挙で勝利を収めたが、新型コロナウイルス感染拡大等のため、スタッフは事務所の荷物整理ができなかった。昨年11月になって、ようやくスタッフが書類の整理を行ったところ、15年脳腫瘍で亡くなった長男ボー氏の葬儀計画等が入ったファイルの中に、機密書類が一緒に混ざっていた。

 米CBSニュースが1月9日、バイデン大統領の機密文書持ち出しを初めて報じた。機密文書が発見されてから、約2カ月後であった。

「中国」と機密文書持ち出し

 カールソン氏は、トランプ前大統領支持のMAGA運動を展開する中心人物である。同氏は、与党民主党が前回の米中間選挙(22年11月8日)の6日前に、バイデン大統領の機密文書持ち出しを認識していたのにもかかわらず、公表しなかったと批判した。その上で、バイデン政権のメリック・ガーランド米司法長官は、民主党のために「この重要な秘密を隠した」と激しく非難した。

 また、タッカー氏は、中国はバイデン氏がペン・バイデン・センターと関係を持つと知ると、ペンシルベニア大学に何百万ドルもの資金を注ぎ込んだと主張した。確固たる証拠を示さずに、同氏は「中国はわれわれの秘密を知っている」というのだ。

 タッカー氏の狙いは、中国、ペン・バイデン・センターおよびバイデン大統領を結び付けた戦略的メッセージを発信して、機密情報が中国に流れ、国家安全保障のリスクになったという印象を、米国民に与えることである。勿論、そのような証拠はないのだが、その先には「反中国」の米国民にアピールして、世論を味方にするという意図がある。

 タッカー氏と同様の議論をするのが、ドン・ベーコン下院議員(共和党・西部コロラド州)である。ベーコン議員は、米ABCニュースとのインタビューで、ペン・バイデン・センターが「中国国籍の人が出入りできる場所である」と述べた。同議員も、「中国、ペン・バイデン・センター、バイデン大統領」をリンクさせて議論した。

 タッカー氏とベーコン議員には、外国政府(中国)に機密文書が渡ったと、米国民に信じこませ、世論が動けば、バイデン大統領が刑事訴追される可能性が高まるという「政治的計算」がある。米FOXニュースは、ペンシルベニア大学が中国から、献金と契約金を合わせて1億600万ドル(約135億円)以上を得たと報じた。

 しかし、ペン・バイデン・センターは、どんな寄付金も受け取らないという声明を出している。


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