2024年11月24日(日)

21世紀の安全保障論

2023年1月23日

 こうした海兵沿岸連隊の任務、戦い方、編成・装備は、従来の米海兵隊とは異質である。従来の米海兵隊は歩兵を中心とし、敵が占拠する要域を水陸両用作戦および地上での近接戦闘によって奪取するという攻撃的な性格を有していたが、海兵沿岸連隊は敵兵がいない(又は少数の)要域に展開して対艦火力で敵の侵攻を防ぐという防御的な性格を持っている。

 また、従来の米海兵隊は基本的に米海軍による海上・航空優勢の下で水陸両用作戦などを実施しており、海軍によって「支援される」立場だったが、海兵沿岸連隊は敵の海上・航空優勢の下でミサイル攻撃などに耐えながら海軍の行動を「支援する」立場となった。このように敵の勢力圏内で戦う海兵沿岸連隊は、Stand-in Forceと呼ばれている。

台湾有事における第12海兵沿岸連隊の行動とは

 米海兵隊は当面、3個の海兵沿岸連隊を太平洋地域に配備する計画である。最初の海兵沿岸連隊(第3海兵沿岸連隊)は22年3月にハワイに配備済みであり、2個目の第12海兵沿岸連隊は25年までに沖縄に配備されることが決定、3個目の連隊は将来、グアムに配備される予定である。これらの配備からは、海兵沿岸連隊は中国による台湾武力統一に伴う米中間の武力紛争を睨んでいることが見て取れる。

 これらの3個海兵沿岸連隊の中で最も台湾に近い位置に配備される第12海兵沿岸連隊は、情勢緊迫時または有事に際して真っ先に作戦上の要域に展開すると思われる。その展開先の候補は台湾、フィリピンおよび先島諸島(与那国島、石垣島、宮古島など)となろう。

 ただし、米戦略国際問題研究所(CSIS)が23年1月9日に公表した中国による台湾侵攻のシミュレーションでは、開戦前に海兵沿岸連隊が台湾に展開することは政治的にハードルが高く、開戦後に台湾に展開しようとすれば、沖縄からの移動中に中国軍の攻撃によって大きな損害を被るとされている。

 したがって、中国による台湾侵攻の際には第12海兵沿岸連隊が台湾ではなく先島諸島に展開することは十分に予想される。この際の同連隊の任務は、台湾北方から西方に至る海域および先島諸島周辺海域で活動する中国軍の艦艇を攻撃して台湾への侵攻を妨害するとともに、米海軍の台湾近海への接近を掩護(えんご)することになるだろう。

 もちろん、先島諸島に展開した同連隊は中国軍のミサイルなどによる攻撃に晒されることになるが、隠蔽・掩蔽(えんぺい)、地形の利用、頻繁な小移動などによって被害を最小化しつつ戦闘を継続するであろう。なお、中国軍の海・空・ミサイル戦力は西太平洋もカバーしているため、ハワイ、グアム、米本土などから増援部隊が沖縄に来援することは容易ではなく、第12海兵沿岸連隊は厳しい戦いを長期間にわたって続けることになる。


新着記事

»もっと見る