2024年5月2日(木)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年2月1日

 依頼するのは、医師であれば誰でもいい。精神科医である必要も、小児科医である必要もない。花粉症でかかっている耳鼻科医でもよければ、湿疹でかかっている皮膚科医でもいい。虫歯でかかっている歯科医でもいいだろう。

 要は、医師を担ぎ出すことが有効なのである。学校であれ、社会であれ、裁判所でさえも、医師という高度専門職者が、法に基づいた意見を文書にて表明した場合、それを軽く見ることはありえない。

 同じ意見表明を、親、親族、隣人、塾講師、PTA関係者が行ってもいいが、これらの一般人の場合と異なり、医師の意見表明には人命にかかわる専門職としての付加価値が伴う。目的はさらなるいじめ被害を防ぐことなのだから、そのために利用できるものは何であれ利用すべきである。

アドボケイトもまた医師の仕事

 これは、筆者から医師同僚の皆さんへのお願いだが、医師の仕事は診断や治療だけではないということにご理解を賜りたい。アドボケイトもまた仕事である。

 アドボケイトという言葉は聞きなれないかもしれない。自分に対する権利侵害を自ら訴えることが苦手な人、自分を防御することが困難な人のために、代弁・擁護する活動である。英語の ‘advocate’ が「主張する、弁護する」という他動詞、ないし「擁護者、仲裁者、弁護士」という名詞、‘advocacy’が「擁護、弁護、弁護士業」を意味する名詞である。

 アドボケイトは狭義には弁護士のことを意味するが、広義には法律プロフェッショナルに限定せず、広く「代弁」「擁護」を行う人のことをさす。医師がアドボケイト役を買って出ねばならないケースは、きわめて多い。

 今日、もっとも積極的にアドボケイトに取り組んでいるのは、小児科医たちである。児童虐待があるからである。日本小児科学会は、子どものアドボケイトであることを医師像の一つとして挙げ、専門医の到達目標に掲げている。

 本稿のような提案に対し、医師の一部から「弁護士のまね事などすべきでない」という反論もありえるだろう。しかし、筆者は「弁護士のまね事」だとは思わない。

 筆者としては、生命を守る任務の当然のこととして、学校に対して注意喚起しているにすぎない。本来は、学校側が気付くべきことを、教師たちより先に気づいたので、学校にご報告申し上げているだけである。

 筆者はこれまで、いじめ防止対策推進法に則った診断書を発行して、学校側から感謝されたことは一度もないが、しかし、無視されたことも一度もない。学校は、例外なく、高度の緊張感をもって診断書を受け止めるはずである。

 筆者には苦い経験がある。いじめ被害者が自殺したこともあれば、反撃に出て刑事事件を起こしたこともあった。そのような経験をしているので、可能性を察知したら、躊躇はしないつもりである。

   
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