「あーちん(安藤)の人生の繰り返しが退屈にみえる」という観客は、謎の女水川あさみのショットと、繰り返される人生のドタバタ劇をしばらくは楽しんだほうが、ラストに予想されるミステリーのどんでん返しを見落として、あとで後悔すると思う。
竹野内主演の「素敵な」も、当初の評判はかならずしも好評とはいえなかった。いまとなっては、“名作”である。脚本のバカリズムのギャグと想定を超えるストーリーテラーの才能に慣れるのには、ちょっと時が必要である。
「徳」を積みながら変わる人生
あーちんは、自分の人生を1周目、2周目、3周目と呼ぶ。1周目では、大学の文学部卒業後に市役所に。2周目では、薬学部を卒業して薬局チェーン店に勤務。3周目は、もとの文学部から日本テレビのドラマ部門に就職を果たした。
交通事故などで死ぬたびに、あーちんはまっしろな壁に囲まれた部屋に立っているところで意識を取り戻す。そのかたすにある「死後案内所」の職員をバカリズム自身が演じている。
あーちん(安藤)は職員(バカリズム)に次の世では何に生まれ変わるのかを尋ねる。
1周目の死後は「アリクイ」、2周目の死後は「サバ」だった。なぜ、人間に生まれ変われないのかを聞くあーちんに、職員のバカリズムは「徳を積めば人間になれる」と。
しかし、制限回数はあるけれども、人間世界に帰ることもできると。あーちんは、人間に戻る扉を開けて、過去の意識をもったまま、父・寛(田中直樹)と母・久美子(中島ひろ子)のもとに産声を上げる。
過去の記憶を持つあーちんは、次の周の人生を変えようとする。1周目で付き合った大学生の(松坂桃李)は、パチンコ好きのダメな男だったが、2周目の理容店で見た雑誌の特集で「年収10億円のベンチャー」として紹介されていた。
そこで、3周目も付き合うようになり、パチンコ禁止にしたほかに、下宿まで押しかけて部屋の掃除をしっかりやるように指示したりするようになる。しかし、その結果、逆に嫌われてしまい、別れをいいだされる始末となった。