早速、政治メディア「The Hill」は去る10日、「サードレール問題であわてる共和党」の見出しで以下のように報じた:
「過去数十年来の共和党のスローガンでもあった社会保障予算削減措置について最近、多くの同党議員が距離を置き始める中、今週の米議会におけるやりとりは、疑いもなく、ソーシャル・セキュリティやメディケア問題が依然として米国政治のサードレールであることを示した。民主党は大統領演説で勢いづき、これらの問題で共和党たたきに転じる一方、共和党は防戦に躍起となっており、社会年金制度の廃止を提唱したリック・スコット上院議員に正面から反対する議員も少なくない」
「シェリー・キャピト上院議員(ウェストバージニア州選出)はその一人であり、本紙記者に対し『自分は高齢者の多い州出身でもあり、コロナ禍などで州民が困難に直面しているときだけに、この問題に触ることは現実的でもなく、政治的問題になり、とんでもないことだ』とコメントしている。同じ共和党で新人のマイク・ローラー下院議員も『繰り返し言うが、社会保障関係の圧縮は断じて支持できない。それどころか、関係予算案は満額承認すべきだ』と異議を唱えている」
公共ラジオ放送「NPR」も同日付で、①バイデン大統領が一般教書演説の中で、共和党内に社会保障関係予算の削減の動きがあると言及したことに共和党がいきり立ったこと自体、この問題が米国政治のサードレールとなっていることを裏付けた、②マッカーシー下院議長(共和)も社会プログラムの予算カットは「論外」とする一方で、バイデン政権による政府債務上限引き上げには反対しており、対応に苦慮している、③スコット上院議員の財政均衡案には連邦政府プログラムのすべてが含まれており、それがバイデン大統領に対共和党攻撃のスキを与えた――との解説を報じた。
公共テレビ「PBS」は11日、①バイデン氏は過去に、大統領就任以来の政策と異なる発言を何回もしてきたが、大統領報道官も説明している通り、過去2年の立場は、社会保障堅持で首尾一貫している、②バイデン政権が一部共和党議員たちの保守的動きをどこまで政治利用できるかは、来年大統領選に向けての共和党の対処いかんにかかっている――などと伝えた。
このほか、多くの有力紙のコラム欄でも、大統領演説をきっかけとして「サードレール・ポリティックス」の見出し、論評が目立った。
米国民に不可欠となりつつある社会保障
なぜ、社会保障政策が「サードレール」なのかは、数字が証明している。
米国社会保険庁の最新データによると、65歳以上の退職者のうち6700万人が毎月、ソーシャル・セキュリティ年金を受け取っており、平均受給額は1825ドルとなっている。全体支給額は国家予算全体の19%を占める。
65歳以上の高齢者を対象とした公営医療保険メディケアには、2400万人が加入しており、全人口比率は約18%を占める。
低所得者家庭を対象とした医療補助制度メディケイド加入者は、8437万人に達する。
そしてこの3つのプログラムを主体とした社会保障関係の政府支出総額は、1兆3000万ドルと巨大だ。これは、国防費1兆1600ドルをも上回っており、国費の最大の金食い虫であることは間違いない。
米国社会の高齢化が今後、さらに進むにつれて、社会保障への期待度も一層高まり、債務は膨らむ一方だが、これだけ多くの国民が恩恵にあずかっている以上、政治家が「サードレール」に容易に手を付けにくい状況になりつつある。
最近の世論調査「YouGuv poll」でも、成人の76%、年金受給者の89%が「現行の社会保障制度を支持する」と回答したほか、57%が、「関係予算拡大」を求める結果となっている。
しかし、共和党にはかねてから、「アンチ社会保障」の烙印が押されてきたことは周知の事実だ。