2023年の米国は、外交・内政ともに波乱含みの幕開けとなった。外交では、22年年末にはゼレンスキー・ウクライナ大統領によるワシントン電撃訪問が大きな話題となったが、23年に入ってすぐ、バイデン大統領がメキシコ・シティを訪問、1月10日に米加墨3カ国の北米首脳会談に出席、北米大陸における半導体生産の増加やサプライチェーン、代替エネルギー開発や移民問題などを議論した。さらに、その首脳会談から帰国してすぐに岸田文雄首相のワシントン訪問を迎え、日米首脳会談に臨むなど、年明け早々、忙しい外交日程が続いている。
しかし、国内的により大きな関心を集めているのは、米国の内政状況だろう。年明け早々、(1)下院議長選出時の共和党の迷走、(2)下院共和党による閣僚弾劾、(3)バイデン大統領の機密文書取り扱いに関する疑惑、の三大ネタで大揺れだからだ。
下院議長選出を巡り共和党内の内乱勃発
まず、早々につまずいたのは共和党である。1月3日に第118回連邦議会が招集された後、多数党たる自党から下院議長を選出するのに4日近くもかかってしまったのだ。
通常は、選挙後に連邦議会の新会期が招集されると、初日に、多数党の指導者が同党議員の圧倒的支持を得て下院議長に選出され、新会期が本格的にスタートする。しかし、今年は、ケビン・マッカーシー議員が下院議長選出に必要な218票を獲得するために、計15回の投票を要し、その結果、1月第1週は、下院が実質的に「空転」するという異常事態が生じたのだ。
このような混乱の最大理由は、トランプ前大統領(ないしトランプ前大統領が推進しようとしていた保守的政策アジェンダ)を支持する党内保守派20人余りが、マッカーシー議員支持を拒み、複数の共和党保守派議員に分散投票し続けたことである。ジム・ジョーダン下院議員が、本人が当初からマッカーシー氏の下院議長選出支持を明言し、支持を呼び掛ける演説まで本会議場でしているにも拘わらず、最後の最後まで党内保守派の票を集め続けたことからも、保守派がいかに頑なに抵抗していたかが窺える。
このような事態が起こることは極めて異例だ。下院議長の選出にもめた唯一の前例は、「最ももめた下院議長選挙」として下院のホームページにも記載されている、1世紀以上前の1855~56年にかけて、第34回連邦議会会期当初に行われた下院議長選挙である。当時は、奴隷制度や移民問題などをめぐり政党間で激しい対立があり、55年12月に第1回投票が行われた後、翌年2月にナサニエル・バンクス下院議員(マサチューセッツ州選出)が103票対100票というわずか3票の僅差でウイリアム・エイキン下院議員(サウスカロライナ州選出)を退けるまで、なんと計133回、投票がやり直されただけだ。