下院議長になるために必要な票を集めるために、マッカーシー議員が党内保守派に対して妥協に妥協を重ねた結果、下院が実質的に活動を開始する前に、「一人の議員が、下院議長の席は『空席』であると宣言できる」という実質「議員一人でも下院議長不信任案を発議できる」という規則が含まれた下院議事運営規則を修正するパッケージが可決されることとなった。 これは、2015年9月にジョン・ベイナー下院議長(当時)が辞任するきっかけとなったもので、下院議長としての権限が著しく弱まることになる。
このことについては、「下院議長に選出されるという目的のために、下院議長職を破壊した」といった批判的な意見を既に招いており、共和党内の「少数派の暴走」により正常な議事運営ができなくなる可能性が既に懸念されている。
1876年以来の閣僚弾劾?
共和党内の保守派議員による「少数派の暴走」を示す象徴的な動きが、下院で盛り上がりつつある。アレハンドロ・マヨルカス国土安全保障長官の弾劾を目指す動きだ。
メキシコからの不法移民の爆発的増加は、昨年以来、南米と国境を接するテキサス州やフロリダ州などの知事が不法移民をバスに乗せカマラ・ハリス副大統領公邸前やワシントン市内のユニオン・ステーション駅のバスターミナルに大量輸送し始めたことで、「南部国境問題(Southern border Issue)」として関心を集めるようになった。年明け早々、バイデン大統領が北米首脳会談でメキシコ・シティを訪問する前日の1月9日、就任後初めてテキサス州エル・パソの国境地帯を視察したことは、バイデン政権として配慮を示す狙いがあったとも言われる。
共和党内では、バイデン政権発足以来、下院議長選挙で一定の票を集め続けたジョーダン下院議員(フロリダ州)やビッグス下院議員(アリゾナ州)といったメキシコと国境を接している州選出の議員や州知事は、政権の移民政策が南部国境で混乱を招いていると批判していた。23年1月に入り、下院で共和党が多数となったことで、国境管理を主管する国土安全保障省のマヨルカス長官を弾劾しようとする動きが出てきた。既に、弾劾決議案を起案する権限を持った司法委員会は、下院共和党内のコンセンサスが取れれば、弾劾決議を起案する方向で動く可能性が高いことが、議会専門誌のThe Hill やCNNで報道され始めている。
下院議長選挙の混乱と同様、現役閣僚が弾劾された前例は、1876年にウイリアム・ベルクナップ戦争長官(当時)が弾劾された例しかないほど、稀なのが現実だ。しかも、下院で弾劾決議案が可決されても、民主党が多数党の座を維持している上院で可決される可能性はゼロ。共和党内からもこの動きには批判が出ており、まだまだ迷走を続けそうな勢いである。
バイデン大統領の公文書取り扱い疑惑
そして、共和党が迷走を続ける一方、バイデン政権側にも、今後、大きな問題に発展する可能性のある事案が昨年、勃発した。いわゆる「バイデン機密文書案件」である。
本件は、昨年11月、バイデン大統領の名を冠した非営利団体であるペン・バイデン・センターから、オバマ政権が終了した際に、国立公文書館に引き渡されるべきだった文書が見つかったことに端を発している。さらに12月に、デラウエア州のバイデン大統領の私邸のガレージから機密文書が入った箱が見つかったことでこの問題はさらに深刻化。1月12日にメリック・ガーランド司法長官が特別捜査官を任命するところまで事態が悪化してしまったのだ。
ちなみに、この捜査が「民主党政権下の司法省が、民主党の大統領を捜査するため、甘い捜査になる」という批判がでることを懸念したのか、特別捜査官には、トランプ前政権時代にメリーランド州検察官を務めていた韓国系のロバート・ハー弁護士が任命されている。