更年期とは何か
まず、更年期とは何か。これは、そのケアの内容にも関連するため、世界の国々それぞれで若干異なる。
例えば、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編『産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020』によれば、更年期は「女性の加齢に伴う生殖期から非生殖期への移行期間であり、わが国では閉経の前後5年の合計10年間」と定義されている。卵巣が卵胞を作る働きを終えて月経がもう来なくなる閉経は、日本人女性では平均50歳ぐらいで経験すると言われているが、実際には40歳台前半から50歳台後半までと、かなり個人差がある。
英語では、「menopause」という言葉が「閉経」にも「更年期」にも使われるので、日本語にする場合には注意が必要である。米国での定義については、最近出版された米国医師会雑誌『JAMA』に掲載された総説論文が参考になる。
それによると、閉経を迎えるまでの移行期に早期と後期があり、閉経移行早期(early menopausal transition)は月経周期が前回のそれと7日以上異なることで、閉経移行後期(late menopausal transition)では60日以上月経のない期間があらわれる。閉経周辺期(perimenopause)というのは、閉経移行期と閉経してから12カ月を合わせた期間である。
英国のNICE(National Institute for Health and Care Excellence)の更年期の診断とマネジメントについてのガイドラインでは、症状を重視していて、特別な疾患のない45歳以上の女性で、後で述べる血管運動神経症状と不規則な月経周期があれば閉経周辺期と診断する。ホルモン避妊薬を使用していない女性で少なくとも12カ月のあいだ月経がなければ更年期と診断する。
更年期のさまざまな症状
更年期には、次のような症状が現れることがあり、これに悩まされる人が少なくない。日常生活に支障を来たすことがあるかないかで、軽い方を「更年期症状」と呼び、重い方を「更年期障害」と呼ぶ人もいるが、私は2つに区分したラベルを貼って固定したもののように扱うよりも、より柔軟に症状の重症度をスペクトラムとして捉える方を好む。
・血管運動神経症状:顔のほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗など
・その他の身体症状:疲れやすい、めまい、動悸、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛、足腰の冷えなど
・精神症状:不眠、イライラ、不安感、自信・自己効用感の低下、抑うつ気分、認知機能の低下など
もう一つ、更年期の症状として忘れてならないのは、エストロゲンの低下によって引き起こされる泌尿生殖器系の症状である。閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause、GSM)と呼ばれることもある。
これらの症状は、更年期の症状として見逃されることが多く、したがって適切に治療されないことが多い。膣が乾燥して、痛みを感じたり、すぐ尿意をもよおしたり、夜尿、尿意切迫があり、しばしば尿路感染症や白癬(はくせん)症と誤診されたりする。K.S.さんの場合のように、性生活への影響が大きいこともある。こうしたことは、患者からはなかなか恥ずかしくて話せないので、こちらからそれと特定して質問することが必要なこともある。