2024年4月25日(木)

家庭医の日常

2023年3月1日

どう診断するのか

 閉経もその前後にわたる更年期あるいは閉経周辺期も、多くの人に訪れる人生の一段階である。必ずしも病的なものと捉える必要はないとも言える。でもY.U.さんのように、自分が更年期なのか知りたい人は結構いて、閉経に向けて女性ホルモンの分泌が減って行くのだから、それに伴う変化を検査で知ることができれば「客観的に」更年期を診断できるはずだと期待する。

 女性ホルモン(エストロゲン)の一つであるエストラジオール(estradiol; E2)は、主として卵巣から分泌される。卵巣を刺激してエストロゲンの分泌を促す卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone; FSH)は、脳の真下に位置する脳下垂体前葉から分泌される。このE2とFSHが、更年期に関連して血液検査で測定できるホルモンの代表であろう。卵巣の機能低下に伴いE2が低値となり、そのことでフィードバックがかかってFSHが高値となることが想定される。

 しかし、閉経前の7〜10年(日本では「プレ更年期」と呼ばれることもある)から閉経後2年ぐらいまでの間は、実はE2とFSHのレベルは大きく増減する。そのため、採血してこれらのホルモンを測定しても確実なことが言えないのである。45歳以上で典型的な症状がある女性には、更年期を診断するためにこれらの検査は必要ない。

 42歳のY.U.さんは、話を聴いていくと血管運動神経症状はなく、まだ月経も周期的にあるので、更年期は考えにくい。もちろん今採血してE2やFSHを測定する意義は乏しい。疲れやすさとイライラについては別の原因を探って行った方がよさそうだ。

ホルモン補充療法とは

 ホルモン補充療法(hormone replacement therapy; HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う諸症状や疾患の治療に用いられる療法で、エストロゲン製剤を投与する治療の総称である。子宮がある人、または子宮内膜症で子宮摘出術を受けた人には、残存した子宮内膜組織が増殖しないようにプロゲステロン(黄体ホルモン)製剤が加えられる。

 基本的に、明確な目的で使用されるHRTの潜在的な有益性は高く、閉経後数年以内に開始された場合の害は少ない。ただ、最新最良のエビデンスを常に考慮していく必要がある。

 HRTを受けるかどうかの意思決定は、最新の臨床研究のエビデンスに基づいたHRTの有益性と害について、個々の患者のコンテクストをよく知った家庭医が説明した上で相談することが望ましい。その際、HRTに代わる更年期の症状のケアのオプション(生活習慣の改善、ホルモン以外の薬剤による治療、認知行動療法などの薬剤以外の治療など)についても紹介して相談したい。

 HRT に関するメディアの報道は常に正確であるとは限らないので、注意喚起が必要になる。インターネットでの医療機関の広告についても同様に注意が必要である。しばしば、HRTの害についての説明が乏しく、必ずしも最新最良のエビデンスを考慮していない。

 医療者の間での知識と経験のギャップも大きい。経験が浅い人は、しばしば害を過大評価し、更年期症状が女性の生活の質に与える影響を過小評価する傾向があるため、HRTの処方に消極的であることが知られている。

 逆に、経験が豊富な人はHRTの害を過小評価し、有益性を過大評価する傾向がある。最新の臨床研究のエビデンスの動向を継続してフォローする努力が必要だ。


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