2024年12月22日(日)

Wedge OPINION

2023年3月16日

Wedge2023年4月号特集『地方議会ってホントにいるの?』で、構想日本代表の加藤秀樹氏による『今のままの地方議会ならいらない』を掲載しております。ここでは、Wedge2006年4月号で同氏にご寄稿いただいた記事を再掲します。なお、本記事に記載の数値などについては、全て2006年当時のものです。 
(minokuniya/gettyimages)

 「小さな政府」とは本当のところ何なのだろうか。このような「やさしい」言葉ほど誰もがわかったつもりでよく考えずに使っていることが多い。

 「政府=ガバメント」の主役はどこの国でも政治家だが、日本では「政府=官庁、官僚」のイメージが一般的だ。だから小さな政府と言うと、省庁や公務員の削減が専ら議論になる。しかし、実は省庁や公務員の数でみると日本の政府は欧米と比べてかなり少ない方だ。一方、権限や国民に対する口出しの程度で見ると、相当大きい。また、政府について語るなら地方政府も含めて議論しなければならない。ところが、ここでも「三位一体改革」は国と地方自治体のお金のやりとりに終始している。つまり、本丸の改革はまだほとんど手付かずで、これからということだ。

 そこで、ここでは本来は住民の日々の暮らしと意向の反映に中心的役割を果たすべき地方議会のあり方について考えてみたい。

 あまりケチなことは言いたくないのだが、まずは総勢6万人いる地方議員のコストパフォーマンスから見ていこう。

 表1をご覧頂きたい。地方議会に使われている税金の額である。1人当りの報酬+期末手当が、都道府県議1450万円、市議750万円、町村議360万円。それに議会開催時の交通・宿泊費、視察に行く経費、議長交際費、海外視察支度料など諸費用を加えると、それぞれ2100万円、950万円、400万円となる。都道府県議は諸費用の給付だけで、国民1世帯当りの年間平均所得(580万円・2004年国民生活基礎調査)を超える。

 しかも、通常企業なら出張に行けば実費精算だろうが、議会では一律支給が多い。人口20万人規模のある市議会議員の場合、議会会期中、1日5500円の交通費が支給されるが、実際にかかる往復交通費は1000円。1日4500円、議会は年間80日くらいなので36万円が議員の「小遣い」となっている。

欧米の地方議会に見る採りうる選択肢とは

 総額4000億円の、以上のようなお金が生きていればとやかく言うことはない。

 では、地方議会はきちんと機能しているだろうか?

 地方自治法で定められている地方議会の役割は、その地域における様々なルールを決め、住民から集めた税金の使い道をチェックすることだ。

 実際に地方議員はどの程度働いているのか。00年に日本世論調査会が行なった調査では、地方議会の現状について、「まったく満足していない」「あまり満足していない」が合わせて6割を越えた。主な不満要因を整理すると、

  • ほぼオール与党体制のため、行政に対するチェックが働いていない
  • 政策立案能力が低い
  • 高い議員報酬に加え「隠れた財布」がある

 など、存在そのものが問われている。

 現行制度の枠内での改革には限界があるが、「そもそも論」として、地方議会をどうすれば良いのだろうか。

 欧米諸国を参考にしてみよう。全体として、地方議会は日本と同様、立法権と予算の決定権を持っており、夜間や休日に開かれることが多い。議員はボランティアで議会開会の都度手当が支給され、全議員に多額の報酬が与えられる日本の地方議員(専業は少ないがボランティアでもない)とは大きく異なる。

 以下、今後の議論のきっかけまでに2つのパターンを考えてみた。

 ①議員を増やして報酬を下げる。住民参加との併用。

 ヨーロッパでは多数の議員がわずかの手当で地方議会を構成しているケースが一般的だ。ドイツやフランスの基礎自治体の議員数は10万人単位で、日本の自治会に近い。さらに、スイスでは地方も立法権を議会と住民の双方が持つ「半直接民主制」をとっている。その柱は、一定数の住民の発案を議会で議論することを義務付ける「国民発案(イニシアティブ)」と、最終決定権を住民に持たせる「国民表決(レファレンダム)」だ。

 日本の場合、議会傍聴者は1日数名と欧米に比べ極端に少ない。住民参加のための環境整備が長年言われ続けているが何も変わらない。ならば、住民の参加権を制度化することも議論すれば良い。

 ポピュリズム全盛の時代に直接参加の危険性も指摘されようが、今より悪くなるとも思えないし、政策分野ごとに参加のレベルを変えることで対応できると思う。また、かつては自治会、町内会もある程度機能していたし、歴史的には日本の住民自治はかなり行き渡っていたことを考えれば検討の価値はあるだろう。

 住民参加は別としてヨーロッパ方式にすると、費用はどうなるだろうか。

 ドイツを例にとると、議員数は多く、約20万人(州議会は除く)。人口が6000万人なので1万人当り約30人の議員がいることになる。地方議員は定額の報酬か議会ごとの出席手当かの選択制で、平均すると1人当り年間約50万円。仮にこれを日本に当てはめてみると、人口1万人当り議員数30人として合計36万人、年間報酬は総額1800億円。現在と比べて約2300億円の削減になる。この一部を住民自治の運営費用に充てることもできる。

 今の日本では、出生率が下がっても大雪が降っても矛先が行政に向かう。普段「小さな政府」を主張しているマスコミなどは急先鋒だ。住民が行政や政治に参加することは、批判をしながら実は行政に依存している「無責任住民」を減らすことにもつながる。住民が当事者意識を持つ仕組みは、議会の見直しにも地方再生にも不可欠である。


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