EV化は雇用を失いかねない
反対に回ったイタリアには、アルファ・ロメオ、フィアットなどの自動車メーカーがある。フェラーリなど生産台数が年間1万台に届かない高級車メーカは、今回のEV化の例外とされ、少し猶予が与えられている。
イタリアの自動車産業の直接雇用者数は16万9000人だが、EV化により減少する製造に係る雇用は全体の3割から4割とされる。増える雇用もあるが、減少を補うほどではない。ドイツとフランスの自動車業界は、EV化の35年目標に反対したが、その大きな理由は雇用への影響だ。
EV化による雇用、経済への大きな影響が、自動車産業を持つ欧州主要国共通の頭痛の種だ。フランスの経済・財務相は、35年のEV化が合意された22年6月に「かなりの仕事は35年にも残ることになるのではないか。政府は充電設備を可能な限り国産化し、自動車製造とその下請けを支援する」と述べたが、自動車業界からは具体的な支援策が明らかでないとの批判があった。雇用維持には政府支援が必要だ。
EU全体では、雇用者総数は1億9100万人。そのうち製造業の雇用は3020万人で、自動車産業で製造に係る直接雇用は製造業雇用の8.5%に相当する260万人となる。自動車製造に係る間接雇用を合わせると約12%、350万人の雇用がある。
EUの主要自動車製造国の製造に係る直接雇用者数と製造業の雇用者に占める比率は、図-4に示されている。大きな自動車産業の雇用を持つ主要国にとってはEV化による影響は大きい。
EVを価格的に購入できない懸念も
35年までのEV化が議論された22年6月にフランスの自動車産業労組代表はテレビ番組に出演し、次のように述べた。「EVを購入可能な消費者が多くいるとは思わない。ICE車の価格の2倍にもなる」。
EUは脱中国依存を図るため、蓄電池材料、レアアースなどを域内で生産あるいはリサイクルする計画だ。EU製が実現すれば中国製部品よりもコストが上昇することが予想され、EV価格をさらに押し上げることになる。
ポーランド、ブルガリアが法案に反対する理由もEVの価格と伝えられている。欧州主要国はEV購入と利用に際しさまざまな補助制度を導入している。欧州で昨年導入されていた補助金制度は表の通りだが、中東欧諸国の多くは財政上の問題から大きな補助金額を用意できない。
35年にICE車が販売中止となればEVを購入することができない消費者、EV難民が多く登場する。結局、50年時点でも古くなったICE車が多く利用されることになり、脱炭素の目標達成は困難だとの声もでている。