充電設備も大きな課題だ。例えば、フランスでは現在の充電ポイント数6万を、30年までに100万に増やす必要があるとされている。中東欧諸国は充電ポイントを整備可能だろうか。
35年EV化は実現するのか
イタリアもドイツもEV化そのものに反対しているのではなく、35年の導入は早すぎるとの主張だ。加えて、技術中立であればEVに限らずCO2を排出しない他の技術、ICE車の合成燃料利用も認められるべきと主張している。
原材料の脱中国依存が直ぐに実現する訳ではなく、中国製EVとの競争に勝てる見込みも高くはないとすれば、中国に対し優位性を持つICE車を残したいと考えるのは当然の選択だ。安全保障上からも、必要な行動だ。
自動車産業は、欧州の多くの国で大きな雇用を作り周辺産業の裾野も広い。欧州自動車工業会は、自動車産業に係るEU内の全雇用を1270万人と発表している。EV化の雇用への影響を無視することはできない。
EU内では経済格差もあり、すべてのEU市民がEV車を購入可能な状況にもない。消費者の行動、充電設備の整備からも12年間で全てEVに切り替えるのは無理がある。
グリーンピースなどの環境団体は、35年EV化が見送られたことにつき強い不満を表明している。いつものことだが、私たちが考えるべきことは環境だけではない。安全保障、雇用、市民生活は重要だ。温暖化対策のため犠牲にできることには限りがある。
イタリアからは、35年EV化の検討を行うのは24年の欧州議会の選挙後との意見も出されている。自動車部門の温暖化対策の進め方については、まだ議論が必要だろう。
ロシアが始めた戦争は、安全保障問題を浮かび上がらせた。EVに関する議論にも新しい視点が必要になった。
日本政府は温暖化対策に一直線のように見える。安全保障、脱中国依存、雇用、経済と考えるべき点は多い。議論は十分行われているのだろうか。
「環境と経済の両立」とお題目を唱えることは簡単だが、実行と実現は容易ではなく、多面的な検討が必要なことを考えるべきだ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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