両国の国境線は俄然危険な国境線となる。中国主導の上海協力機構(SCO)から民主ロシアは離脱するだろう。特に米国国防省が注目している点は中露間のハイテク軍事技術の協力だ。
ペンタゴンによると両国は常時米国の軍事面でのグローバルな優越性を崩壊させようとしていると云う(「China and Russia’s Dangerous Convergence-How to Counter an Emerging Partnership-」Andrea Kendall-Taylor and David O. Shullman、May 3, 2021)。これも継続されないだろう。
ロシアは民主化することで北大西洋条約機構(NATO)諸国と友好国になる。自由世界の一員になる訳だ。
その結果、米国は在欧兵力をアジア太平洋に移転できる。アジア太平洋に利害関係を持つ他の欧州諸国、例えば英国やフランスなどもその軍事資源をアジア太平洋方面に振り向けるだろう。
ロシアが西側同盟に加わることは全地球レベルでの地政学上の変化を惹起する。特に欧州とアジア太平洋における安全保障面で重要な衝撃を生む。最も重要なことは民主ロシアの出現は中国の行動を制約する要因になると云う点だ。
その観点から、例えば、台湾への中国の姿勢にどう影響するのか? 安全保障の政策領域で中心的に議論されるべきテーマだ。
民主化するロシアは世界のエネルギー経済上も安定勢力になる可能性があるし、国連などの国際組織では新風を吹き込むだろう。安全保障理事会の風景は一変する。
そして何よりも地球上の専制国家は中国だけと云うことになる。これも全球的な地政学に大きな前向きの変化をもたらす。中国にとっては何事につけ面倒な事態になる。
歴史的に見て不思議はないロシアの民主化
しかもロシアの民主化は決して空疎な話ではない。欧米論壇で行われている数多くのロシア民主化論を中国の政策当局は全部知っている筈だ。
ロシアの専制はロシアの宿命だと云った議論に安住出来ないくらいのことは中国も既に知っている。在外にある中国大使館は欧米で根強く行われているロシア民主化論を逐一北京に報告しているに違いない。
歴史的に見ても、ロシアが民主化することはそれ程不思議ではなかった。ソ連崩壊後、1989年、90年、91年に行われた選挙でロシア国民は遂に民主主義が実現するとして熱狂していたのだ。
しかしそれがそうならなかったのは、一にかかってプーチン氏があらゆる策略を弄して民主化運動を封殺したからだ。富と権限を自分とオリガルヒに集中し、ロシア国民に広く抱かれている帝政指向を利用し、国家と云うものの権威を強化し、治安組織を強大化し、市民社会を弾圧し、死の恐怖をもって民主化運動を封殺した。
それにプーチン氏には時代が僥倖(ぎょうこう)をもたらした。幸運にもプーチン氏就任直後に石油価格は上昇を始め、ロシア経済は1999年から2008年まで年7%の成長を遂げたのだ。
人気は上昇し、それが彼に自信を与えた。オバマ米大統領時代のマクフォール駐露大使は「彼は自分の天才ぶりに気づき独裁を強化した」と述べている(「Why Vladimir Putin’s Luck Ran Out」Michael McFaul、February 2023)。要するに、時の運が幸いしたのであり、「専制はロシアの宿命だ」と云う訳では決してなかった。
その上、ロシアでは民主化運動が相当に幅広い国民に支持されていると云う現実がある。中国とかなり異なる図柄だ。