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オトナの教養 週末の一冊

2023年3月20日

「低採算」「ブラック職場」「閉店ラッシュ」……。外からは見えない「外食産業」の内側を徹底取材で解き明かした『外食を救うのは誰か』(日経BP)。著者で日経ビジネス記者の鷲尾龍一さんに話を聞いた。

『外食を救うのは誰か』。鷲尾 龍一(わしお・りゅういち)
1986年兵庫県生まれ。2008年京都大学法学部卒業、読売新聞大阪本社入社。4年半の地方勤務を経て経済部へ。10年近くにわたり、大阪や東京で小売りや電機、インフラ、金融、スタートアップなどの業界を取材した。19年8月から日経ビジネス記者。総合商社の動向や企業買収の現場、外食業界などを重点的に取材している。

 まず、驚かされるのは「開業の2年後には半分が閉業する」とされる新陳代謝の激しさだ。

「コロナ前は25兆円の市場規模がありました。これだけ巨大な市場でありながら、大手と中小・零細のシェアは半分ずつとされています。新陳代謝が激しく、大手や中小などの規模を問わず、競争が起きている産業です」(鷲尾さん、「」内以下同)

 確かに一口に「外食」と言っても、つかみどころがない。ファストフードもあれば、街場の食堂、高級レストランまでさまざまだ。だから、多店舗展開するファストフードのように「工業化(効率化)」をつき詰めることが必要な業態もあれば、近隣住民との関係性を大事にする街場の食堂、店内の仕様や食材にこだわる高級レストランなど、それぞれ「解」は異なる。本書では、こうした「異業種」とも言える多様なプレイヤーが集まった外食産業の全体像をとらえようとしている。

「外食分野の専門記者ではない視点で取材執筆をしました。外食は店舗経営や味などに詳しい専門家・専門誌の数が非常に多い。そこで、電機や金融、インフラなど他の業界を取材した経験を生かし、外食を『産業』としてとらえてみようと試みました」

 本書では、米カリフォルニアの「In-N-Out Burger」をモデルにして「チェーン店並みの価格で、より美味しい」をコンセプトにした「ブルースターバーガー」が、多店舗化を目指して失敗した事例をプロローグとして、「コロナ禍の中での外食産業の実態」(コロナの給付金で高級車を買ったという外食経営者までいるというから驚きだ)、「外食産業60年史」、「グルメサイトの闇」、そして、将来の外食産業の姿を、先進的に動いているプレイヤーの動きを取材することで明らかにしている。その結果として、

  • 「外食の『よそ者』記者だからこそ書けた、外食産業のリアル」( トレタ 中村仁CEO)。
  • 「消費者の側に立って書かれた本。外食産業の人たちは読むべき」(高倉町珈琲 横川竟会長、すかいらーく創業者)。
  • 「この本が出されたというのはある意味奇跡的だ」( エー・ピーホールディングス 野本周作CEO)

 という声が業界関係者から寄せられることにつながった。

「消費者側」の視点ということでいえば、そもそも新陳代謝が激しいこと自体は、顧客にとってデメリットなのか? という疑問もある。個人的な経験でいえば、会社の近くに大好きな「牛骨ラーメン」店があったが、短い期間で閉店してしまった。私個人としては残念だが、大勢には影響が少ない。

「突き詰めて考えると、他のエッセンシャル(必要不可欠)な仕事に対して、外食が絶対に必要か? といえば、そうではないと思います。行きつけのレストラン、食堂がなくなっても、スーパーなどで食材を買えば、食べ物が食べられなくなるというわけではありません。例えば、バブル期までに建てられた遊園地が潰れてしまいましたが、さみしさはあっても、生活できないほど困るかと言えばそうではありません。外食も『エンタメ』なのです。いかに楽しませることができるかが、カギになります。それができなければ、遊園地のようになくなったことも忘れられる存在になりかねません」

 確かに、居抜きが繰り返されるお店など、前に何があったのか思い出すことが難しいことも少なくない。

「結局は、可処分時間の取り合いです。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大で広がったデリバリー。外食産業の競争相手は、デリバリーで頼んだコンビニ飯を食べながら見るNetflixかもしれません」

「食」という根源的な欲求だけなら、コンビニとスーパーが競争相手かもしれないが、外食産業はエンタメ産業とも戦わなければならないという指摘だ。


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