2024年12月15日(日)

Wedge REPORT

2023年2月26日

ドゥイブス法による「無痛MRI乳がん検診」を受けている様子(DWIBS SEARCH)

 働く女性たちの悩みは、自分の身近なパートナーの悩みでもあるかもしれないーー。

「男性から女性に、乳がん検診をプレゼントする文化をつくりたい。例えば、結婚記念日、母親や妻の誕生日などに、検査費用をプレゼントするというものだ。『ドゥイブス法』であれば、費用は2万円程度で、それほど高いプレゼントというわけでもない」

 こう話すのは、放射線専門医の高原太郎東海大学教授だ。「DWIBS(ドゥイブス)法」というMRI(磁気共鳴画像装置)を使った、がん検診の仕組みを独自に開発した。

 その中で、特に注目を集めているのが「無痛MRI乳がん検診」だ。乳房専用のX線検査であるマンモグラフィでは、板で乳房を圧迫するため、痛みを伴うのだ。加えて下着を脱いで乳房をさらす必要もある。

 ところが、高原教授が開発したドゥイブス法は、痛みがないことはもちろん、下着を着たままで検査を受けることを可能とした。これは世界初である。撮影した画像についてもX線では乳房内の乳腺が邪魔をして、がんが見えない場合もあるが、MRI画像では、そのようなこともないという。

 このドゥイブス法を広げようと、高原教授は2018年に「ドゥイブス・サーチ」という会社を設立した。従業員3人、資本金300万円の小所帯だ。自らMRIなどのアセットを持ってクリニックを運営するのではなく、ドゥイブス法による検査方法を各病院に伝授すると共に、全国に協力してくれる医師のネットワークをつくることで、MRI画像の「読影」をサポートしている。会社としては、こうしたサポートフィーを利益とするというわけだ。

 起業から4年半弱で、全国40の病院にドゥイブス法が広がった。さらに開設予定の病院も増えている。自治体の間での理解も進み、京都市、北九州市、高知市、今治市(愛媛)、鹿嶋市(茨城)、五泉市(新潟)などでは「ふるさと納税」をすることで、その返礼としてドゥイブス法による検診が受けられる。また、帯広市(北海道)では、検診に自治体から補助がつく。

働き盛り、子育て世代の女性を守りたい

 高原教授は言う。「乳がんの罹患は、30代に入ると、グンと伸びる。働き盛りの女性だったり、子育ての真っ最中にあるお母さんだったりが、罹患してしまうということだ。女性のがん死亡原因の1位は、30~60代まで乳がんとなっている。女性の9人に1人が乳がんになるという計算もある。

 だからこそ、乳がん検診を受診してほしいが、足元においても検診率は47%ほどにとどまっている(国民生活基礎調査、2019年)。この結果についても、ピンクリボン運動など、啓発活動を行った結果、10年ほどかけて38%から増えたもの。それでも過半に届いていないというのが実情だ。

 私は、ドゥイブス法を考案したが、マンモグラフィによる検診を否定しているわけではない。ドゥイブス法の検診を受けた3826人にアンケートしたところ、そもそも約3分の1の方が、乳がん検診を受けたことがないというものであり、なんと77%が2年以上、検診を受けたことがないというものだった。そのため、マンモグラフィとドゥイブス法が併存する形で、乳がん検診を受ける方が増えてほしいと考えている。問題の根本は、未病の段階で検診にいかないということに尽きる」。

 そうした中で、高原教授が取り組んでいるのが、「新しい文化づくり」だ。何かの記念日に、レストランに行ったり、旅行に行ったりすることも、もちろんいい。そこに「乳がん検診」を加えるのも悪くない。いや、むしろ、感謝や愛情を表現する新しい手段になるのではないか(2023年4月からサービス開始予定)。

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