2024年4月18日(木)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2023年4月4日

結局決まったのは「何もしなくてよい」措置

 条約水域が公海に限定されるため、NPFCでは公海と200カイリ水域でのサンマ漁獲枠に関する「仕切り」を設けている。これまでの資源管理措置は、総枠33万3750トン、うち公海域18万8000トン、各国は公海域での漁獲量を18年比で40%削減、というものだった(NPFC, Conservation and Management Measure for Pacific Saury, CMM 2021-08.)。

 今回の会議で日本は当初、ここから約半減の総枠17万トン、うち公海10万トン、各国は公海域での漁獲量を18年比で71%削減、という提案を行った。これに対して遠洋漁業国である韓国は総枠20万5000トン、うち公海16万6000トン、各国は公海域での漁獲量を18年比で55%削減、という対案を提示した。

 ここで大きな違いは、総枠もさることながら、公海と200カイリ水域と配分比率である。日本案は公海6割、200カイリ水域4割だが、韓国案は公海8割、200カイリ水域2割となっている。

 日本としては、サンマはかつて自国の200カイリ水域に多数来遊し、漁獲のうちの200カイリ水域内での比率が15年以前は4割を超えていたのだから、この程度の割合は確保したいとの立場である(図3参照)。日本は公海での漁獲71%削減というかなり思い切った削減案も提示している。

(出所)NPFC統計基に筆者作成 写真を拡大

 しかしこれまでの管理措置で沿岸国は自国の200カイリ内での枠を公海枠に振り替えてよいという沿岸国に極めて有利な「おまけ」規定があり 、日本提案はこの点を修正していないため、日本などの沿岸国は事実上「取り放題」で「何もしなくてよい」内容となっている。

 他方、21年現在の世界の総漁獲量は9万2000トン、うち200カイリ水域は僅か1000トンと2%すら下回っている。韓国のなどの遠洋漁業国は、沿岸4割などの配分はあまりに過大で受け入れられないという立場だった。韓国案では公海の配分比率を下げることにより、韓国など遠洋漁業国も事実上「何もしなくてよい」内容となっている。

 この結果、妥協案として最終的に決まったのは、総枠25万トン、うち公海域が15万トン、各国は公海域での漁獲量を18年比で55%削減という合意であった。公海での枠は遠洋漁業国である韓国案の16万6000トンに大きく歩み寄った一方、配分比率は公海6割、200カイリ水域4割という日本案をそのまま引き継いだため、総枠も日本・韓国双方の当初案から大きく膨らんでしまった。いずれにせよ、総枠・公海枠ともに21年現在の漁獲実績(9万2000トン、うち公海1000トン)からかけ離れたものとなっている。

 「18年比55%削減」は韓国案を引き継いだものであるが、これも同様に21年の各国実績を上回っている(表参照)。沿岸国に対する「おまけ」規定も現状のままとされ、漁況が現状のままであるならば、沿岸国も遠洋漁業国も事実上「何もしなくてよい」規制措置である。科学的な根拠が希薄な政治的な妥協の産物であり、資源保護には十分な意味を有していると言い難い。

(出所)筆者作成
(注)沿岸国(日・露)は自国200カイリ内での漁獲枠を公海での枠に振替可 写真を拡大

 NPFCではこの他、公海域での操業隻数を18年水準から1割削減か、操業日数を180日(つまり約6カ月)に限定、という新たな規制を追加したが、あまり意味があるとは思えない。操業国のうち日本、韓国、ロシアは18年水準から既に10%操業船数が減少しており、18年比で隻数が増加している中国・台湾、並びに隻数の増減のないバヌアツの操業日数は概ね6カ月程度だからである(NPFC, 9th SSC PS meeting, “Member’s fishery status including 2022 fishery.”)。これもまた、誰も「何もしなくてよい」措置である。唯一何らかの意味があるとすれば、幼魚保護のため東経170度以東の6~7月禁漁が努力規定から義務になったこと程度であろう(中国と台湾がこの時期当該海域で操業していたため)。


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