2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年4月20日

 21年12月に上場一番乗りを果たしたセンスタイムの業績は以下の通り。売上を上回る巨額赤字を抱えている。

(出所)センスタイムの上場目論見書、アニュアルレポートをもとに筆者作成 写真を拡大

 同社の事業は他社企業にAIソリューションを提供する「スマートビジネス」、政府向けの「スマートシティ」、翻訳機や文字起こし機能付きレコーダーなどの「スマートライフ」、自動車メーカー向けに運転支援機能を提供する「インテリジェント・カー」の4つに分類されるが、コロナ禍の影響もあって主力の法人向け、政府向け事業が低迷している。

出所:センスタイムのアニュアルレポートをもとに筆者作成 写真を拡大

 他のAI四小龍も似たり寄ったり。巨額赤字に苦しみ、出口は見つかっていない。

動き出すITの大物たち

 こうした状況でChatGPTショックが到来した。チャットで質問すると、まるで人間のような流暢な文章で返答する。高難度の試験にも合格できるほど、与えられた文章の理解力が高い。一般的な文章を書くだけではなく、ソフトウェアのソースコードも書ける……などなど、その実力は世界の人々を驚かせている。

 一度は幻滅期に入っていた中国AIも、「ChatGPTで新たな局面が開けたのでは!」と、再び熱狂が戻ってきたというわけだ。大手EC(電子商取引)企業のアリババグループ、ゲーム・メッセージ大手の騰訊控股(テンセント)、検索大手の百度(バイドゥ)、動画アプリ「TikTok(ティックトック)」のバイトダンスなど、中国を代表する大手IT企業はのきなみ参入を表明したほか、元グーグル中国総裁のリー・カイフーなど、大物企業家たちがスタートアップ企業を立ち上げる動きも出ている。

 リー・カイフーはAI四小龍に代表される、コンピュータービジョンを中心としたAIブームを「AI1.0」と呼び、ChatGPTに象徴される、現行のブームを「AI2.0」と命名した。では、なぜAI2.0はすごいのか、ChatGPTは期待されているのか。前述した通り、その高度な能力に加えて、ビジネスにおける応用可能性の高さが注目されるのが理由のようだ。

 「iPhone時刻」(iPhoneタイム)

 ChatGPTブームを受けて、中国ビジネス界でよく聞くようになった言葉だ。米アップルがiPhoneを発売したのは07年。これによりスマートフォン時代が始まった。

 スマートフォンの製造販売も巨大産業となったが、それ以上に巨大なのがスマートフォンによって作り上げられたモバイル・インターネットの経済圏だ。アプリを作り出すベンダーも多数生まれたほか、既存産業もスマートフォンを活用することによって新たな成長を手にすることができた。

 ChatGPTに代表される生成AIでも、iPhoneと同じようにさまざまな産業に応用され、巨大な波及効果を生み出すのではないか。iPhoneタイムと同じように、われわれはChatGPTタイムの入口に立っている。このビッグウェーブに乗るしかない。これが今、中国のビジネス界を覆っている熱気だ。


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