2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年5月2日

今秋誕生予定の市場の形と課題

 こうした歴史的経緯の中で、この秋にコメの現物市場が計画されている。開設を表明しているのは2カ所で、3月には概要が報告されている。

 まず、流通経済研究所(東京都千代田区)は別会社となる「みらい米市場」を設立し、大ロットと小ロットの両方の取引に対応する市場とする。当初のメインターゲットは高付加価値の玄米など小口取引を中心とする。生産者の値づけを基にした「オークション方式」(セリ取引)の形態を採用する。

 その後に予定する大ロット取引では、主食用・加工用から始まり「酒米の契約栽培や業務用の大口取引にも広げる」と報じられている。これは「先渡取引機能」に見える。

 もう一つのグリーンフードテックマーケットは石川県の農業法人「ぶった農産」の傘下で、現物市場を通じ、環境に配慮した生産への適切な評価や再生産が可能なコメ(玄米・精米)の価格形成の実現を目指す。出品時に、ロットや決済条件などを提示することを想定する、「農業者主体での運営」を予定されている。

 なお、両者とも現物市場はオンライン上に設置して、生産者自身が価格を決めて売りに出せる機能は共通している。いわば、「リクエスト&オファー方式」ともいえる取引方法である。

 これらの概要を見ただけでも、解決すべき問題点と今後への課題がいくつか見えてくる。

① 対面式、札入れではないオンライン方式の場合には、その公正・透明性を確保するために、本来は膨大なシステム投資が必要なはずだが、両社はそれに耐え得るのか。

② 受渡しの確実性、代金決済の確実性をどう担保するのか。

③ 生産者重視が前面に打ち出されているようだが、価格形成機能の十分な発揮のためには、本来、売り手・買い手の双方の同等性があってしかるべきではないか。

④ 需要に応じた生産へどう反映し、リードできるのか。

⑤ 全米販が主導する日本コメ市場や全米工の席上取引など既存の現物取引とどう違うか。

 既存の「相対取引」「仲間取引」は縮小・吸収されるのか。それとも、並立、すみ分け、競争を選ぶのか。

期待される機能とその先 

 需要に応じた生産・供給を行うことは生産・供給サイドの責任でもあり、権利でもある。問題なのは、これを、狭い範囲の閉鎖的な情報をもとに行うことにある。これは、ともすれば、行政、団体、集落による強制的とすら思える手法となってしまう。

 ① 多くの関係者が参加する、②公正で公開の価格形成を行う、③商品は確実に受け渡す、④ 代金決済を保証する。これらの条件を備えたコメ市場が存在すれば、納得する形にはなるだろう。この度の現物市場には、そのぐらいの権威が欲しい。

 生産者は、手持ちのコメを販売すれば、次に考えるのは、種子手当て、田植えの準備など「経営体として持続できる計画・計算が成り立つか」だ。田植えが済んでいれば、「生育途上のコメがこの先いくらで売れるか」の展望と「次の経営を可能とするヘッジのポジション確保」だろう。

 コメを買い入れている流通業者には、手持ちのコメの資産価値が下がらないように、「動産担保価値」や「ヘッジ会計の価値」の確定であろう。これらには、現物市場は応えられない。『先物市場』の出番となる。

 現物、先渡、先物の3市場が連携して機能を果たすことで、需給価格の安定と生産者・消費者の経営・家計に貢献する。ここは、次回、「やはりコメには先物市場が必要だ」として解説することにしたい。

 
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 便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。
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