2024年12月22日(日)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年5月2日

 おぼろげながら、「コメ現物市場」の姿かたちが見えてきた。「この秋の取引開始」を目指すとして、2市場が概要を発表した。日本の主食であるコメ業界に70年以上にわたって存在しなかったとも言える「公的で自由な流通・取引の場」が生まれることとなる。

(sergeyryzhov/gettyimages)

 制度・設計の具体化が急がれ、関係者に対して必要で十分な情報提供と機能発揮への納得を得る必要がある。多数の参加、公開で公正な価格決定の保証は絶対的な条件であろう。かつてJA全農が上場を取り止めたため、2011年の廃止に追い込まれた「コメ価格形成センター」の二の舞はゴメンである。

 今回の現物市場の登場がコメの生産、流通、消費などにいかなる効果が生じ、コメの生産現場の健全な発展につながるのか。歴史的経緯も含めて改めておさらいしてみたい。

一年一作のコメだからこそ必要な市場

 自由主義経済下では、あらゆる商品の需給調整が市場における価格の評価・形成を通じて誘導されている。この原則は農産物の場合も変わらない。

 そもそもの始まりは、農業の生産力向上を果たした中世以降、余剰農産物を他の商品との交換や換金の場として「市場」(市庭)が発生した。それが発展し、販売を目的とした場となり、生産者は市場を意識したマーケットインの発想へと発達していく。

 市場が生まれた時は、零細多数の生産者と零細多数の需要者が同時存在するとの前提だった。多数、多様、多種の産物を一定の場所に集荷し、公正に値決めをした上で分荷する場としての役割を発揮していた。

 モータリゼーションやコールドチェーンが進展した現代では、産地は広域化、大型化し、消費のサイドも大規模な小売店など大型化してきたため、市場外で生産者と小売りが直接相対して取引する割合が高まっている。特に青果物、水産物、食肉など生鮮食料品に関しては、産直が求められ、卸売市場経由率が低下した。農林水産省のまとめでは、青果は1989年度の83%から2017年度は55%、水産物は75%から49%、食肉は24%から8%に低下した。

 一方、コメなどの穀物は、一年一作の農産物のため、市場なしでは、収穫時期の秋などに暴落(買い手市場)となり、端境期には暴騰(売り手市場)というリスクがある。価格を通年で平準化させ、農業事業者が次年度の経営・生産計画のための先行き指標が求められる。

 さらに、保管のための倉敷料の負担も考慮する必要がある。生育期間が長いため、豊作や凶作のリスクもあり、ヘッジ機能も期待されている。


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