2022年10月6日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年9月10日

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熊野孝文 (くまの・たかふみ)

元米穀新聞記者

1954年生まれ。東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を40年取材してきた。近書に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)。

 すでに九州・四国や関東の早期米がスーパーの店頭に並び始めており、いよいよ2022年産米の新米商戦がスタートを切った。9月に入り北海道や東北、北陸など主要産地での収穫作業も本格化する。

(ipopba/gettyimages)

 価格的にはあらゆる食品が値上がりしている中、コメだけが安いという特異とも言える状況が続いている。農薬や肥料等生産資材が軒並み高騰している中、コメの販売価格が上がらないという状況は生産者にとって再生産も危ぶまれる厳しい状況になっており、流通業者にとっても原料高の製品安という環境で収益の圧迫要因になっている。

 それに加え、農産物検査法改正が流通現場の業務負担を増やしてしまっている。法改正の目的は「合理化・省力化して現場の負担を減らす」で、より多くの銘柄が明記されたコメが店頭に並ぶようになり、流通コストも抑えられることだったはず。コメ管理のデジタル化で日本の消費者や海外へコメの多様な価値をデータ化して伝えられるようにしていたが、実際には新たな書類の提出やデジタル検査移行に伴うさまざまなデータを検査して入力しなければならないといった対応に、現場の検査官から不満の声が上がっている。

 法改正で消費者が求めるコメの選択肢が増えることは良いことだが、実際には二律背反の結果を招くという事態に陥っている。

一つ一つ目視で検査していたコメの銘柄         

 関東のコメ集荷業者からコメの検査について筆者のところに問い合わせがあった。その内容は、「22年産米から農産物検査官が検査をしない未検査米であっても精米袋に銘柄を表示することが可能になったが、そうした未検査米を他の集荷業者はどのように扱っているのか」というものであった。

 一般的にはコメの検査がどのように行われているのかあまり知られていないと思われるので、ざっと大枠を示すと、農産物検査官は全国に約1万8000人もおり、それぞれの地区に検査登録機関がある。検査官は、検査したコメの銘柄や等級などを都道府県に報告し、国へと伝えられる。検査できるコメの品種銘柄は約800品種もあり、こうした検査によって産地銘柄別の検査数量は把握できる。例えば21年産新潟コシヒカリが何俵検査されたかとのデータも分かるようになっており、品質の担保や銘柄偽造表示を防止する役割を担っている。

 これまで精米袋に銘柄を記載するには、資格を得た農産物検査官が『目視』で検査して、等級格付けとともに銘柄を担保していた。検査官が検査しないいわゆる未検査米は精米袋に銘柄を表示することが出来なかった。

 それが、農産物検査法が改正され、検査官の目視鑑定でなくても種子購入伝票や栽培記録などの書類審査で銘柄が表示出来るようになったのだ。

 このことは見方によっては画期的なことで、穀粒判別器という機械検査でも品位データを計測して、銘柄表示が可能になった。生産者にとっては銘柄を明記した商品の魅力発信がしやすくなり、消費者にとっては商品選択の幅が広がることになる。

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