2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2023年5月3日

先物取引=投機的という大いなる誤解

 JAなどが抱いた「投機対象にしてはならない」という懸念がコメの先物取引に対する大きな誤解である。しばしば耳にする批判と誤解を検証してみたい。

 コメの先物取引とは、2カ月先や4カ月先、最長で1年先に引き渡すコメについて、標準品をもとに売りたい人と買いたい人の希望する価格と数量が合致すれば取引が成立する仕組みである。なお、国が複数年先までの取引を推奨している状況下では、仕組みの上では、2年、3年ともっと長期の設計もありうる。いずれにせよ、この先物取引の中で、生産者、販売者ともにこの先のコメの価格と販売数量を確定させることができる。

 多くの投機家(スペキュレーター)が参加してリスクを引き受け、それによって保険機能(ヘッジ)が果たされるという仕組みだ。「価格の乱高下と不安定」をもたらすのではなく、常に価格の平準化や今現在の市場価格の内側への収斂機能が働く。そうであるが故に、商品先物取引法に基づいて「先物の市場の健全な発展と規制」が行われている、いわば、国家公認の市場である。

 世界に目を向けても、「先物は経済インフラである」とする認識が一般的である。主食だからこそ中長期視点での需給価格安定が必要で、将来を見通した公正な指標を示し、安定供給を導くことで国民生活の安定に繋がると考えている

 実際に米国をはじめ世界各国では、主食ともいえる小麦が先物の上場商品である。そして、投機資金が入るからこそ、それを利用したヘッジ資金(保険料)が割安で済む。そもそも、実際にコメを扱う当業者は、経営の継続が先物取引の利用目的であって、投機は不要だ。

 歴史的に見ても、先の「堂島米会所」の目的は武士階級の給与に当たる米価を、買いの気配=需要の増加を呼ぶことによって高めることだった。大正のコメ騒動の時、「高騰の元凶は先物だから取引停止」と主張した仲小路廉農商務相に対し、相場師の増田貫一は「原因は需給関係と超金融緩慢。相場師をたたいても価格は下がらず、力ずくでの米価抑制策は端境期の品不足=価格大暴騰になるだろう」と指摘し、実際にそうなった。

 先物への不信感の理由に、かつて北海道の生産者が小豆の先物取引で大きな損失を被ったことを挙げることがあるが、これは梶山季之の小説『赤いダイヤ』(集英社、1962年)の影響が大きく、投機による損である。投機家とヘッジを目的とする生産者(当業者)を同一視してはいけない。小豆で最大の国内供給者ホクレンは、長らく「小豆先物市場の最大のプレーヤー」として相場をリードしてきたことを忘れてはいけない。

 現物市場のみにしている方が実は価格リスク、授受・決済のリスクが大きい。メルカリなどで、ときに生じるトラブルはその一例である。損失補償の制度も整備されていないのに対し、先物取引では「清算機関の必置」(代金決済の保証)が法定されている。


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