先行きの価格についても、現物市場だけでは「疑心暗鬼」状態を招き、拠り所にはならない。直近の例として、2023年産の政府備蓄米買入れの入札状況を見ると、4回目時点の落札数量は95%にとどまり、5回目でも全量が落札されていない。過去3年は4回目時点で全量落札であったから、各産地には、先行きの価格を探って戸惑っている姿が浮かんでくる。
23年産米は22年産より高くなるのではないかと推測し、現在の流通価格よりもまだ安いとみられる備蓄米の買い入れ入札を避ける動きがあるということだ。先行き価格を「先物市場」が示すことができれば、こうした探り合いのような動きはなくなり、売り手・買い手の双方が納得できる落札となるだろう。
輸出振興のための先物市場
さらにもう一つ、現在の日本農政の大きな課題として「農林水産物・食料品等の輸出の振興」がある。コメ価格の上昇、円安、アジア地域の経済成長などもあって、いま、コメのマーケットは、国内にとどまらずグローバル化してきた。
米国西海岸、豪州などを含めて、「環太平洋地域は一つのコメ市場」へと拡大しつつある。輸出振興の重点品目にもなっているコメとコメ関連製品について、現状を放置すれば、おそらく価格決定のヘゲモニーは、現物・先渡・先物といずれの取引も可能な中国・大連、米国・シカゴなど海外の市場に牛耳られてしまうであろう。コメ、麦、大豆、トウモロコシなどの穀物貿易における最終価格決定は、「ベーシス+先物市場の価格」が国際市場では一般的であるからだ。
グローバル化の時代にあって、世界の先物市場では、先物取引=経済の不可欠なインフラとして成長が続くが、日本の先物取引は「縮小」の状況にある。「世界の常識と日本の非常識」の格差は大きい。
2022年12月28日の日本経済新聞は、先物市場を以下のように語っている。
「先物市場は人間に例えれば「体温計」、熱があるときに(人為的に)上限設定をしても熱は下がらないどころか手当てが遅れて取り返しのつかないことになる。価格発見機能(と需給誘導機能)を骨抜きにしてはならない」
全くその通りである。
便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。