2024年11月24日(日)

都市vs地方 

2023年5月12日

なぜ、立候補者が減っているのか

 無投票選挙に比して、投票率の低さは国政選挙でも地方選挙でも古くから注目を集め、国内外でも学問的な分析の対象とされてきた。最近では、地域や国家の社会的信頼の指標としての「ソーシャル・キャピタル」の構成要素としても選挙の投票率が注目を集めている。

 投票率に関しての経済学的な説明としては、有権者は投票によって期待される便益Bと投票行動に係るコストCを比較して、投票を行うか否かを決定しているとされる。例えば、投票のコストCが一定であるとき、有力な候補が1人しかいない場合は「結果が見えているのであえてコストをかけて投票するまでもない」、「他の有権者の判断に従えばよい(選挙結果のフリーライド)」という判断が起こり、投票に行く有権者は少なくなる。

 逆に、政権選択がかかっている選挙や明確な争点が存在する選挙(小泉純一郎政権による郵政民営化選択選挙など)では、Bが明確化し、増加するので有権者の投票行動は促される。また、期待便益Bが一定としても、投票のコストCが軽減されれば投票率は高くなる。期日前投票制度が普及してきたことにより、休日の余暇を犠牲にしてまでも投票に行かなければならないというコストCが低下するため、期日前投票率が増加してきている。すなわち憲法に裏打ちされた法的な(神聖ともいうべき)有権者の投票行動に関しても、経済的な損得の判断が影響しているという論理が存在するわけである。

 これに対して、立候補者側からの行動に焦点をあてた分析は限定的である。データに基づき定量的な分析を行った最近の研究としては、平成国際大学法学部の石上泰州教授による「無投票当選の計量分析」(『法學研究』、慶応義塾大学法学研究会Vol.93,No.1,pp.117-137)があげられる。この分析では、2019年4月末までの都道府県議会選挙について、全国1090の選挙区が無投票となるか否かを分析している。

 その結果、現職が全員立候補している場合や、知事の平均在任期間が長い場合には、新規立候補が阻害され、無投票となる確率が高くなるとしている。逆に選挙区の定数が大きい場合や、選挙区や定数に変更があった場合、選挙区の人口が多い場合、選挙区での共産党の得票率が高い場合、競争が促されたり、新規立候補の余地が生まれたりするため、選挙区が無投票となる確率が低くなるとの結論を得ている。

 この仮説を踏まえ、立候補者にとってのコストと期待便益の観点を付加して、直近の4月の統一地方選挙の無投票選挙区について考えてみたい。

立候補のコストと期待便益で変化するのか

 県議会や政令指定都市議会の議員に立候補するのはどのようなメリットとコストがあると考えられるか。議員報酬や持つことができる権限、当選への見通しなど4つの変数を設定した。

 なお今回は、個別の選挙区ごとでの無投票の有無ではなく、都道府県・政令指定都市別に無投票なった選挙区の比率を見ている。また、今回の統一地方選のタイミングで選挙を行われなかった地区は分析対象から除外している。

 第1に検討する指標は有権者側の投票率である。候補者にとっては投票率が低いと、より少ない人の支持を得ることで当選できるため、選挙活動のコストが小さくなることが考えられる。この場合は、多くの立候補が期待される。

 逆に、投票率が低いこと自体が地域の政治的関心が低いことを表すとすれば、低投票率が地域の政治に参加するモチベーションが低いことを表し、候補者が減って無投票となる確率を高める可能性を持っている。

 図1は、今回の統一地方戦の投票率と無投票となった選挙区の地域別の比率を示したものである。

(出所)表1及び表2の総務省資料より筆者作成
(注)横軸:投票率(%)、縦軸:無投票となった選挙区の比率(%) 写真を拡大

 図1をみると有権者側の投票率と立候補者数が少ないことによる無投票選挙区の発生比率の間には明確な相関は見られないことが分かる。


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