続いて案内してくれたのは車で5分ほど離れた場所にある製材工場の塩﨑商店。近隣に位置するため、顧客のニーズに合ったスピード感で作業ができる。小さな製材工場ではあるものの、長年地域に根差しているからこそ地元の木の特徴を知り尽くしている。
17歳からこの製材工場で働く3代目の塩﨑康弘さん(52歳)は「速水林業さんの木は節が少なく加工がしやすいし、無駄がない。丁寧に育てられていることがよく伝わってきます」と笑みを浮かべた。その塩﨑さんが製材作業に入った途端、職人の目つき、顔つきに変わり、真剣な表情で木と向き合う姿勢が印象的だった。
次に取材班が足を運んだのは大田賀山林の敷地内にある、苗木を育てる一画だ。「人材、森林内に開設された道路網の密度、再造林と育林、そして苗木が揃わなければ林業は成り立たない」と速水さんは力を込めて言う。「この苗木は出荷できるようになるまでほとんど手を加えません。水もやらず草も抜かない。苗木の生産にはお金をかけず、自然由来の力を伸ばすことが一番。木は生きています。林業に従事する者として木の性格をしっかりと学ぶことも重要なんです」。
今は昔の「山持ち金持ち」時代
森林所有者が見る現在の林政
「日本の林業は変革期にある」。速水さんは危機感を募らせる。なぜか。
「10年ほど前から、古くから林業を専業で営んでいた事業者が相次いで森林を売却し、離脱し始めています。『山持ち金持ち』と言われる時代もありましたが、現状は全く異なります。
原因の一つは森林所有者である山元にお金が戻らなくなっていることです。確かに2010年以降、角材などの製品価格は上昇していますが、その恵みが山元に届いているとは言えません。一口に『木材価格』といっても、さまざまな種類があります。最終的な消費者に渡る直前の価格である製品価格、加工されて丸太の状態を指す丸太価格、森林にある木そのものの値段を意味する立木価格です。
1980年代には、スギの立木価格は製品価格のうちの約30%を占めており、1立方㍍あたり約1万~2万円が山元に戻っていました。しかし、今となっては2%ほどで1立方㍍あたり3000円程度です。この割合は欧米と比べても極端に低い。数十年の時間と数百万円のお金をかけて、このリターンでは再造林するインセンティブは働きません。