「太くて立派な木ですね。何年物の木ですか」。これは小誌記者が思わず口にした素朴な疑問だった。
「木ってのは、生き物なんです。だから『何年物』ではなく『何年生』って言い方をするんですよ。この木は200年生くらいかな」─。
4月下旬、小誌取材班は三重県南部の尾鷲市と紀北町にまたがる尾鷲林業地帯にある速水林業の大田賀山林を訪れた。記者の質問に答えてくれたのは、この地で江戸時代から200年以上にわたって林業を営む速水林業9代目の速水亨さんだ。同社の森林は2000年、第三者機関が国際的に統一された基準に沿って森林管理を評価する「FSC森林認証制度」を日本で初めて取得し、環境保全型林業で知られる。
「うちが所有している山は全体で1070ヘクタール、東京ドーム約228個分です。これからちょうど木を伐って搬出する作業があるので、ご案内しますよ」
車を走らせること約10分。林道を上っていくと、見たことのない形の重機が目に飛び込んできた。そこでは森地を傷めずに伐り倒した木を架線集材する「タワーヤーダ」と呼ばれる機械と、木材を掴む機能などがついたホイール式の集材積み込み車両「スキディングローダー」を操る2人の男性従業員が黙々と汗を流していた。
「ワイヤーを掛けるのが1人、タワーヤーダとスキディングローダーの操作をするのが1人ずつ、3人1組でこの作業を行います。木の長さは若いので約13メートル前後で、このヒノキは皮を剥いて牡蠣養殖筏として使われます」(速水さん)
手際よく行われていたが、木と木の狭い間を架線集材するには相応の技術力が必要であろう。「速水林業では1990年からタワーヤーダシステムを完成させ、技術を磨いてきました。単に高性能の機械を搬入すればできるというものではありません」。
重機の修理やメンテナンスも自社で行う。速水さんは「ここまで自前で機械の修理をするところは、日本中どこにもないと自負しています。最初はドイツ語で書かれたマニュアルを渡されただけでしたが、部品を一つずつバラしては写真を撮り、組み立てては写真を撮ることを繰り返しながらノウハウを蓄積してきました」と明かす。