40年近くにわたって立木価格が低下しているのは、国の政策と無関係ではないはずです。特に、2000年代に入り、森林が二酸化炭素(CO2)吸収源として位置付けられたことで間伐が加速しました。林野庁も『間伐は環境保全』であり『間伐材を使うことで森林が救われる』とのロジックで間伐=善という機運が広まりました。市場では需要が低下する中、丸太の供給過多が続き丸太価格は安値で安定し、一方で立木価格は大きく低下したのです。つまり、補助金林政が立木価格を押し下げている面もあるのです」
それでも森林所有者が立木を売るのはなぜなのか。速水さんは言う。
「『安くても売れるうちに売ってしまえ』『もう植えなければいい』という発想なのでしょうね。大事なのは時間軸の違いを理解すること。一般的な経営者であればいかにその時々の利益を最大化するかが問われますが、森林経営には、それに加えて森林の社会的意義と機能を守ること、つまり、いかに『持続』させるかが求められます。
今伐れる状態の木は現在の所有者の親や祖父母世代が植えた将来世代への〝投資〟です。今まさにわれわれは日本の森林資源が『持続』できるかどうかの瀬戸際に立たされています。補助金の変化でしか変われない林業から脱却すべきです。その意味で、過去の林政の検証は絶対に必要だと思います」
日本の林業・林政の変遷を最前線で見てきた速水さんの言葉は重い。ただ、速水さんは悲観ばかりしていない。「森林を『アセット(資源)』として捉え、その価値を適切に評価し、森林全体の価値を高めるマネジメントができる人材を日本でも育てたい。私も70歳を迎えたので、最後の仕事としてこうしたアセットマネージャーの育成に注力したいと考えています。日本の林業を持続可能なものにしたい。木材生産と自然との共生こそがこれからの日本の林業には絶対に必要なのですから」。
「林業」とは木の時間と
人の時間をつなぐ生業
冒頭の速水さんと記者とのやりとりには続きがある。速水さんはこう付け加えたのだった。
「理想の森林にするために、200年生、300年生、400年生と樹齢の異なる木を育てる作業もしています。夢物語のように感じるかもしれないけれど、誰かが始めなければ何も生まれないし、いずれなくなってしまう。
自分が植えた木を生きている間に伐って利用することはできない。林業とはそんな生業です。誰が管理し、どう利用されるかも分からない数十年、数百年先の『理想の森林』を思い描き、そこに向かって今できる限りのことを真面目にやる。そこに人間の知見や想像力が生きてくるんです。林業には木の時間と人の時間を〝つなぐ〟役割があります。それが面白くなければ、林業は面白くないですよ」
写真=さとうわたる( WATARU SATO)