2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年8月13日

 こうした中国海軍の活動を、「食事への執着」と笑うことは簡単だ。だが、同盟国のない中国は、誰かに海軍の運用を教わることが出来なかった。自ら解決策を模索してきたのだ。ロシアでさえ、中国を警戒して、装備品は供給しても運用のノウハウは教えてこなかった。この状況は、第2次世界大戦以前は英国海軍、以後は米国海軍に教えを乞うてきた日本とは大きく異なる。独自の努力には限界があることを示しつつも、沿岸でしか行動できなかった中国海軍が、短期間でその行動範囲を外洋に広げているのもまた事実である。

中国がロシアのノウハウを学ぶ?

 そして、この中国の「手探り」の状況も変わるかも知れない。ロシアが、近年、中国海軍軍人の教育訓練を実施しているからだ。2013年7月23日の『環球時報』は、「現在、ロシア軍訓練センターは中国水上艦艇、潜水艦、航空機搭乗員及び対空砲要員に対して訓練を実施している」と報じた。ロシア海軍のノウハウを学ぶことが出来れば、中国海軍の運用レベルは急速に向上する可能性がある。

 実際、ロシアは、2012年に続いて2013年も「海上連合」演習を実施した。この中で、訓練指導部、合同司令部、艦隊司令部等の各レベルで両軍の混成を進めたとしている。また、7月9日には、演習の重点項目として、中露特戦隊連合部隊による海賊対処訓練を行った。今回の共同演習から中国海軍は多くのノウハウを学んだと考えられるのだ。政治的な意義が大きい演習だと言われながら、中国にとっては軍事的にも得るものが多かったと言える。

 一方で、ロシアの真意を理解するのは難しい。共同演習実施の発表が、中国艦隊が青島を出港した当日の7月1日になったのは、房峰輝総参謀長のロシア公式訪問のタイミングを待った、或いは、直前に公表することで日本に対する衝撃を大きくすることを狙ったといった理由が考えられるが、対日圧力という政治的意義を強調する中国とロシアの間で、演習の調整が難航した可能性もある。

 また、「海賊対処訓練」が重点項目の一つであったことから、「海上連合-2013」が、必ずしも日中開戦の一貫したシナリオに基づいた演習ではなかったことが理解できる。更に、中国艦隊が宗谷海峡を通峡した前日には、ロシア艦隊16隻が通峡しているが、これは、中露の連携を印象付ける反面、中国へのけん制とも取れる。

 中国海軍の外観だけを見て脅威だと叫ぶのは無意味だ。しかし、運用能力を過小評価することも危険である。装備と運用を総合的に分析して初めて能力を検証できる。また、日本に圧力をかけるにしても中露共同が不可欠だが、ロシアにはロシアの国益と計算がある。中露共同の意義を理解するためには、日中、中露関係のみならず、米中、米露関係の影響を考慮する必要がある。


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