IARCはリスク評価していない
IARCが行っているのは、専門的には「ハザードの特定」と呼ばれる作業です。
健康への悪影響、つまりリスクの原因となるものが、「ハザード」(危害要因)です。リスク評価ではまず、ハザードはなにかを特定し、そのハザードの持つ「毒性の強さ」と、その物質をどれだけ食べるかという「ばく露量」を調べ、双方からリスクを推定します。IARCが行っているのは、図1の中の①にあたる作業です。
農薬や食品添加物など化学物質について「リスク評価」する場合は、発がん性だけではなく、消化吸収代謝への影響や生殖毒性など、さまざまな角度から調べて「ハザードの特性評価」を行い、さらにその物質の摂取量を把握する「ばく露評価」を実施し、これらを総合して「リスクの推定」をします。この一連の流れと結論がリスク評価。これにより、ヒトの健康への悪影響がどの程度か、判断できます。
IARCが行なっているのは、多数の毒性がある中で「発がん性」に注目し、ハザードとなりうるかどうか、というところを厳しく見て分類すること。しかし、発がん性の強さも摂取量も調べていないので、リスク評価はしていません。
このあたり、けっこう複雑ですね。日本のメディアの中には、「IARCがアスパルテームのリスク評価を行った」と書いているものがいくつもありますが、誤報です。リスク評価はしていないのです。
このIARCの分類については、食品安全委員会のQ&Aで詳しく説明しています。
JECFAは多数の毒性を評価しADIを決定
次にJECFAの発表を見てみましょう。JECFAは、WHOとFAOが合同で設立した食品添加物についての専門家会議で、多数の食品添加物について評価し、許容一日摂取量(ADI)を設定しています。ばく露評価も行っており、JECFAは図1の①から④までの「リスク評価」を行っています。
JECFAは以前にもアスパルテームを評価し、ADIを40 mg/kg体重/日としていたのですが、新しい試験結果や学術論文などを踏まえ、再評価を行い14日に発表。ADIの見直しは必要ない、という判断でした。
このADIは、計算すると体重60kgの人が毎日、2400mgのアスパルテームを一生涯摂取し続けたとしても、健康への悪影響は出ない、ということを示しています。たとえば、アスパルテームが使われた飲料を1日に2リットル飲んだ場合、製品によって含有量に違いがあるものの、アスパルテームの摂取量を過大に見積もっても1000mgに至りません。つまり、かなり多めに摂取する人でも、ADIにはほど遠いのです。
アスパルテームは口から摂取された後、消化管内で完全に分解されアミノ酸であるフェニルアラニンとアスパラギン酸、それにメタノールになります。これらは、一般的な食品を摂取しても体内で生成します。アスパルテームをADIまでの量、摂取するヒト試験でも、血液中のこれらの物質の濃度上昇は見られませんでした。
JECFAは、発がん性や2型糖尿病など健康影響の可能性を検討したうえで、「全体として、アスパルテームを摂取した後、有害な影響を及ぼすという説得力のある証拠は、実験動物やヒトのデータからは得られない」と結論づけています。