腸内細菌叢への影響は、研究途上
2014年に話題になったのは、著名な学術誌Natureに掲載されたマウスの腸内細菌叢への影響についての論文です。「ノンシュガー甘味料が腸内細菌叢に影響し糖尿病を促進する可能性がある」とした内容です。しかし、マウスでの試験が中心で、ヒトへの影響についてはわずかな人数(7人)しか調べていないことなどから、各国機関ともに、ヒトへの健康影響を示すエビデンスとしては採用していません。
同じ研究グループが22年にも学術誌Cellで論文発表しており、こちらは4種の甘味料(サッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビア)を2週間、ヒトに摂取してもらい腸内細菌叢の変化をみました。サッカリンとスクラロースは変化がありましたが、アスパルテームとステビアは変化が見られませんでした。
近年は、農薬や動物用医薬品等の腸内細菌叢への影響を調べる研究が世界的に大流行しているのですが、FAOは22年にこれらをレビューし、「よい腸内細菌叢はどのようなものなのか?」が不明確なまま研究が行われていること、研究は緒についたばかりであり、追加の研究が多数必要であることを明確にしています。つまり、〝ノンシュガー甘味料は腸内細菌叢へ悪影響を及ぼす〟という仮説はエビデンスがまったく足りません。
サッカリンやアスパルテームの発がん性、腸内細菌叢への影響研究等については、国立医薬品食品衛生研究所のWebページで、研究内容やそれに対して各国機関がどのように反応したかが時系列に沿って解説されています。
10万人を対象とした調査で発がん性が見えたが……
もう一つの最近の話題は、22年に発表されたフランスの疫学研究結果です。疫学研究というのは、人の集団を対象に食品の摂取量や病気の罹患率などを調べ、関係や疾患の要因などを明らかにするものです。甘味料については、フランスで「NutriNet-Santé」という約10万人を対象にした疫学調査が行われています。
最初、各人のさまざまな食品の摂取量を調べ、その後、7年以上にわたってがんにかかるか、どのようながんにかかるか、調べました。その結果、甘味料(アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース)を摂取していた人たちの方が、がんリスクが高いことが判明しました。とくに、アスパルテームは発がんリスクが高い、という結果でした。
これにより、「やっぱりアスパルテームは発がん性がある」とメディアは報じたわけですが、疫学者は「そうは言えない」と判断しているようです。
内閣府食品安全委員会は昨年度、「食品添加物の海外の評価結果等に関する情報収集及び調査」を行っており、甘味料のアスパルテーム、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、それに保存料の安息香酸と安息香酸ナトリウムについて、情報を集めました。その中で、このNutriNet-Santéの論文も考察されています。
研究では、甘味料を摂取している群は、未摂取群よりも発がんリスクが高くなったとしています。ただし、摂取量が多いほど、リスクが大きくなっているわけではありません。化学物質は摂取量が多いほどリスクが大きくなる、という性質を持っているのですが、これに当てはまらないのです。その他の理由もあり、「残余交絡の存在をうかがわせる」と記述されています。
難しい表現ですが要するに、「ノンシュガー甘味料以外の影響を取り除けていないのでは」ということなのです。疫学調査では、さまざまな因子が複合して、「がんになる」という結果となります。甘味料の摂取量だけでなく、野菜や果物などをどれだけの量食べていたか、アルコールをどの程度の量摂っていたか、タバコを吸っていたか、年齢、性差、どういう場所で労働していたか、遺伝要因などが複雑に関係して、結果として「がんになった人」と「がんになっていない人」に分かれます。