「苦難のロシア」からの出口で主導権を握れ
私見では、この期に及んで欧米側がロシアに断固敗北を認めさせようとする戦略では成功しないはずだ。そうではなく「プーチン大統領無きロシア」は欧米社会に迎えられ、平和的に繁栄できるというメッセージであれば、ロシアのエリート層と国民大衆を動かす可能性がある。
難しいだろうが可能性が全くないとは言えない。ロシアは尊敬される国際社会の一員になるという展望をロシア人に示すのだから。
ロシア問題の専門家であるバーグマン氏は「これは要するにプーチン大統領の基盤を弱体化し、排除しようとするメッセージだ。従って、このメッセージは必ずロシア諜報機関の受信妨害を受ける。しかしロシアのエリート層は必ず密かに聞き耳を立てて聞いている」と論じている。
もちろん、プーチン大統領は当然盛大に反論し、対抗して強圧措置を取る可能性がある。しかし、それに対してエリート層、治安組織、そして国民がどう反応するかが問題だ。
今やロシアは選択の時期に直面している。ロシア兵士14万人以上が戦死し、15万人が負傷し、100万人の優秀な人材が国外に出た。3日で済むはずの戦争は500日を超え、勝利のめどは無い。
経済は惨状を呈し、社会は混乱している。プリゴジンの乱はクレムリンの無力さを暴露した。ロシア人は長い長い道をトボトボと歩き、降りかかる途方もない運命に翻弄されている。
筆者はそういう「苦難のロシア」に名誉ある出口と希望の燭光(しょっこう)を提供する役回りをバイデン大統領が担うことを強く願う。この重要な局面でバイデン氏にはウッドロー・ウイルソン大統領のように歴史に名を刻んでもらいたい。
そうすることで中国ではなく米国がこの戦争終結とその後の和平展開の全ての局面、そしてユーラシア全体の地政学的展開に向けて主導権を握ることになるからだ。日本をはじめ西側諸国はこの米国のイニシアチブを一致して強力に支持するべきだ。
一方、プーチン大統領にとっては万事受け入れ難い話だが、プリゴジンの乱で大統領の政治力は既に失墜した。エリートたちはそこを凝視しているに違いない。残された選択肢はもはやほとんどないはずだ。落としどころは狭まったのではないか?