2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2023年8月8日

作品へのメッセージ性を徹底できるか

 この『バービー』をめぐる騒動であるが、コンテンツの輸出側として考えると、さまざまな教訓があるのは事実だ。

 まず、世界観や思想性ということでは、制作サイドに強いメッセージ発信の意欲があるのなら、それは徹底して発信すべきだということだ。日本の事例を挙げてみるのであれば、例えば、宮崎駿氏の『もののけ姫』は、アニミズム的な「異教の世界」を描きながらも、自然への畏敬と人為への反省という深いテーマを妥協せずに押し通したことで、世界中のファンの心をつかんだ。

 また、士郎正宗氏の原作、押井守氏の監督によるアニメ版『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、技術の進歩による管理社会を予言した先駆的な作品だが、そこに明確なメッセージ性が込められていたことが、国境を越えた古典として評価される原因だと思われる。

 その一方で、新海誠氏の『君の名は。』と『天気の子』は、メッセージ性というよりも、緻密な世界観を押し出した作品と言える。だが、『君の名は。』の場合は、神道的世界を万葉集にリンクさせた発想が国境を越えるには難解であったこと、また巫女が口に含んで酒を作るという発想が、多くの文化圏からは抵抗感を持たれたことが、世界的な支持を獲得する際には障害となった。『天気の子』の場合も、人身取引と銃の扱いが、そうした問題と深刻に向き合っている国からすると、やや軽率と見られても仕方がなかったように思われる。

 そうした点を踏まえて、『すずめの戸締まり』では、具体的なアイテムとしての神道を、もっと汎神論的な自然観や思想へと発展させて、東日本大震災の悲劇と対置するところまで深化させたことが成功したと思われる。同時に国外では理解しにくい日本国内のガラパゴス的な表現を見直したこともあり、国外での受容は一気に広まった。

 現代のエンタメは、特に国境を越えていくような普遍性のある作品は、多かれ少なかれ思想性や世界観のエネルギーによって幅広く国際的に受容されていくものだ。この点においては、臆することなくメッセージを掲げて、そのメッセージが届くような演出がされた作品が結果的には成功すると考える。

 その一方で、今回の『バービー』の場合は、作品の本質とは離れたところで、さまざまな騒動に巻き込まれたという評価が可能だ。それぞれの騒動については、作品の本質とは別という考え方ができるのは事実だろう。けれども、個々のトラブルに関しては、その構造を見極めて今後の教訓とすることで、コンテンツ輸出ビジネスの参考にする意義はある。

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