2024年5月14日(火)

プーチンのロシア

2023年8月21日

 ロシアとウクライナによる穀物輸出の品目構成および輸出先を比較したのが、図3、4である。品目では、ロシアが小麦主体であるのに対し、ウクライナはとうもろこしが半分以上を占める。

(出所)国際貿易センター・データベースにもとづき筆者作成 写真を拡大
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 輸出相手地域に目を転じると、ロシアとウクライナはアフリカ・中近東を主力とする構造がやはり似通っている。ただし、近年ウクライナは欧州連合(EU)、アジア太平洋経済協力(APEC、具体的には中国、インドネシア、韓国等)向けの輸出も増強してきた。

ロシアが意図した黒海穀物イニシアティブの裏合意

 22年7月22日、国連、トルコ、ウクライナ、ロシアの4者が、黒海を通じたウクライナからの農産物輸出の再開につき合意に達した。「黒海穀物イニシアティブ」と呼ばれることになる合意である。この枠組みでの農産物輸出が実際に同年8月1日から始まり、着実な成果を挙げた。しかし、本年7月17日、ロシアがこの合意の延長を拒んだため、ウクライナ産農産物の輸出が再び暗礁に乗り上げてしまったことは、周知のとおりである。

 そもそも、昨年7月の時点で、ロシアはなぜ、敵国ウクライナに塩を送るような合意に応じたのか。端的に言えば、その見返りとして、ロシア産の穀物および肥料を輸出する上でのお墨付きと便宜を、国連から取り付けたかったということだろう。欧米がロシア産穀物・肥料を輸入禁止の対象とはしていなかったにもかかわらず、現実には傭船、保険、送金の不安や、事業者の制裁拡大解釈が原因で、ロシア産品の輸出が滞っていたからである。

 ウクライナ産の穀物合意に比べるとあまり語られないが、実は7月22日にはそれとは別立てで、ロシア産穀物・肥料の輸出に関する合意書も国連事務局とロシアの間で調印されている。そこには、「国連はロシア産の食料・肥料・同原料が世界市場に透明かつ障害(金融、保険、輸送など)なくアクセスできるよう支援を継続する。国連は、食料・肥料・同原料は制裁の対象外だという原則に則り、それらのロシア産品を実効的に制裁から除外するよう、関係当局および民間セクターに働きかけるよう努める」と明記されていた。

 ロシア側は、ウクライナ産穀物に関する合意書と、ロシア産穀物・肥料に関する合意書は、一体のものであるとの立場をとり、後者が然るべく前進しなければ、前者からも離脱するという構えを見せるようになる。いわば、ウクライナの食料輸出を人質にとった駆け引きである。


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