そして、自国産の穀物・肥料の輸出を円滑化する具体的な措置がとられていないという不満を次第に募らせ、以下のような5点の要求事項を掲げるに至った。
・農産物取引の決済に多用されるロスセリホズバンク(ロシア農業銀行)を、SWIFTに再接続する。
・ロシアへの農業機械、同部品、関連サービスの提供を再開する。
・保険・再保険、港へのアクセスの制限を撤廃する。
・トリヤッチ~オデーサ・アンモニアパイプラインの稼働を再開する。
・農産物の生産・輸送にかかわる企業の口座凍結を解除する。
輸出は本当に障害に直面しているのか
ロシアの食品・肥料輸出が、制裁による影響を受けているのは事実であろう。ただ、それにより実際にどれだけ輸出量が左右されているかは、検証困難である。というのも、22年2月にロシアがウクライナへの全面軍事侵攻を開始して以来、ロシア当局は貿易統計を一切公表しなくなったからである。
結局、今年に入り、22年のごく大まかな商品分類だけは発表されたものの、その際も農産物・食品分野の開示度はきわめて低く、中身はまったく伺い知れなかった。そして、23年分の貿易統計については、再び非公開の方針に戻ってしまった。
当該品目のうち、22年に肥料の輸出量が大きく落ち込んだことは、確実である。その原因は、前掲の図2に見るように、ロシア産肥料の輸出向け船積みがバルト三国やフィンランドといったEU諸国のバルト海港湾に依存していたことである。
ロシアの一連のオリガルヒが欧米の制裁対象になり、彼らが保有する肥料メーカーの商品がEUの港で船積みされないまま大量に滞貨する事態となった。ロシア肥料生産者協会が22年末に発表したところによると、同年のロシアの肥料輸出は、数量ベースで前年比15%減だったということである。
ただし、その肥料輸出も、現状ではすでに復調しつつあるとみられる。ロシア肥料生産者協会によれば、23年第2、3、4四半期の輸出量は、過去最高だった21年の同時期のレベルにまで回復すると予想されるという。
一方、ロシアの穀物輸出に関しては、制裁にもかかわらず、ほぼ順調に推移していると考えられている。これもロシアが公式統計を発表していないので、米農務省のデータベースにもとづき、図5を作成した。なお、このグラフはカレンダーイヤーではなく、7月始まり・翌年6月終わりの穀物年度になっているので、ご注意いただきたい(前掲の図1はカレンダーイヤー)。
これに見るように、22年7月~23年6月のロシアの穀物輸出は、前年度から大幅に回復しており、おそらく過去最高に達したとみられる。確かに、22、23年と豊作が続いていることを踏まえれば、本来ならもっと輸出できると言いたいのかもしれないが、本当にロシアが主張しているほど同国の穀物輸出が障害に直面しているのか、眉唾である。
筆者は、ロシアはこの問題を通じてむしろ、欧米主導の対ロシア制裁に楔を打ち込むことに主眼を置いているのではないかと考えている。そして、食料・肥料の供給を通じてアフリカ・アジア等にシンパを拡大し、国際的なロシア包囲網の隊列を乱させようという狙いも併せて込められていると、認識している。