2022年2月にロシアがウクライナへの全面的軍事侵攻を開始すると、穀物および植物油の供給国として両国が果たしてきた大きな役割が注目され、また肥料輸出国としてのロシアの重要性も認識されて、世界的に食料の供給不安が広がった。
ロシアとウクライナは、穀物輸出国として、共通点が多い。まず、両国が世界的な輸出国として台頭してきたのは、比較的最近のことである。
両国とも、伝統的に収穫が不安定であり、国内情勢に応じて輸出制限措置を採ることが少なくなかった。特にロシアは、国内供給を優先し、「余力があれば輸出も許容する」というのが基本姿勢となってきた。制限措置の発動頻度が低まり、安定して大量の穀物を輸出するようになったのは、図1に見るとおり、ここ10年ほどのことである。
ロシアとウクライナの共通点と相違点
実は、ロシア・ウクライナとも、穀物の品質が低く、先進国市場では基本的にヒトの食用ではなく、家畜の飼料用となる(とうもろこしだけでなく小麦も)。それに対し、品質要求が厳しくなく、低価格が重視される途上国・新興国市場では、食用にもなる。そうした背景から、アフリカ・中近東がロシア・ウクライナ産穀物の主力市場となってきた。
そんなロシア・ウクライナの穀物輸出にとっては、黒海海運が死活的に重要である。ウクライナの輸出にとって黒海が生命線であることは、だいぶ有名になったはずだ。ロシアも、穀倉地帯が南部に広がっていること、主たる輸出先であるアフリカ・中近東へのアクセスがしやすいことなどから、黒海港湾からの船積みが圧倒的に多いのだ。
図2に、ロシアの穀物と肥料がどの海域の港から輸出されているかを示した(ロシアの商品がロシアではなく近隣国の港から積み出されるパターンもある)。穀物の場合は、黒海・アゾフ海が実に9割を占めていることが見て取れる。