もう一つ見逃せないのは、今日のロシアが国内の食料安全保障を重視して、数量割当、輸出関税など、穀物の輸出制限措置を採っているという事実である。ロシア政府の対応振りを見ると、国内供給優先ゆえの輸出管理・抑制と、今や貴重な外貨獲得源となった農産物輸出の促進との間で、揺れ動いている印象が強い。
輸出妨害のブーメランを食らうロシア
ロシアの妨害により輸送路が限定されているウクライナと異なり、一見すると、ロシアの穀物輸出には本質的な障害は存在していないように思える。国際的な制裁も、致命傷は及ぼしていない模様だ。しかし、実はロシアの穀物輸出にも、戦乱の影響がじわりと及び始めている。
ロシア穀物輸送の一つのパターンとして、アゾフ海からケルチ海峡を通過し、黒海に出て、そこでより大型の船に積み替え、目的地まで運ぶというものがある。しかし、7月17日にウクライナがケルチ海峡に架かるクリミア橋を攻撃して以来、海峡の通航が限定されている。
積出量が減り、アゾフ海の港湾ターミナルは保管倉庫が満杯になり、新たな受け入れを停止しているという。周辺では鉄道およびトラックの渋滞が発生し、荷卸しがままならない状態のようだ。
また、8月4日に黒海に面するノヴォロシースク港でロシア海軍の揚陸艦が攻撃を受けたことも、ダメージとして残っている。バイヤー、海運業者、保険会社は、ロシアの取引先との契約をますます警戒するようになり、大幅に高い運賃や保険料を取引先に求めている。
ロシアの穀物輸出の70%を占めるノヴォロシースク港とタマニ港に寄港する穀物運搬船の保険料は、ルーマニアやブルガリア行きの同種の船よりも1日数万ドルも高いという。業界関係者は、「黒海での緊張エスカレーションはロシアの輸出に打撃を与えるだろう。なぜなら海運会社はすでにロシアの港に船を、特に新型の大型船を出すことを警戒しているからだ」と証言している。
ロシア国防省は7月19日、黒海を通じてウクライナに入港するすべての船舶は、「軍事物資の輸送に関わっている可能性があるとみなす」と発表した。対するウクライナ国防省も7月20日、ロシアの港に向かう船舶は軍事攻撃の対象になりうると警告した。ちなみに、ウクライナ側はロシアのノヴォロシースク、タマニ、ソチ、アナパ、ゲレンジク、トゥアプセの各港を、軍事衝突のリスクのあるエリアとして挙げている。
ロシアが自らの仕掛けた戦争、ウクライナ産穀物輸出妨害のブーメランを食らうような形で、自国の穀物輸出に支障を来したとしても、自業自得という他ない。しかし、ウクライナ産に加え、ロシア産の供給までもが不安定化すれば、アフリカ・中近東などへの影響は大きい。ウクライナを支援している国々にとっても、ジレンマを突き付けられる。